表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

酷いよ、藍翔。

「よし。じゃあちょっと話しても良いか? 」

「う……うん。良いけど……」

吾嬬が改まりすぎて、なんか面白い。

私って酷いのかなぁ? 真面目な人に対して面白いだなんて思っちゃうとか。

で? なんやなんや。

外は暖かい春風が吹いていて、なにか甘酸っぱい感じがする。


「俺さ、一年の女子に……告られたんだ」

「え!? 」

私はとても驚いた。

それものはず。

彼女がいる吾嬬に告白してくるような人は初めてなんだもの。

その一年の女子は果菻の存在を知らないのか?

しかしまぁ驚いた。


「え? なに? その女の子とはどういう関係なの? 」

吾嬬は少し悩んだ顔をして、それから答えた。

「いやそれがな? その女の存在を俺はしらねぇんだよ」

「はぁ? 」

いやマジで「は?」って感じなんだけど。

知らない、しかも下級生に告られたとか、マジで驚き以外のなんでもないんけど。


「そのことを、果菻がいない間に私に相談してきたと」

「そういうこと」

いやでも単純に考えたときに、断る以外になんの行動があるわけ?

相談するほどでもない気がする。

そのことを吾嬬に言う。

そしてその瞬間、頭にくるような返事が返ってきた。

そしてまた同時に、“男ってほんとムカつくな”とも思った。


「だってその子、超可愛いんだもん」

最初は呆れすぎて言葉が出なかった。

けれど今の吾嬬の言葉を脳内でリピートすればするほど、

怒りがこみ上げてきたのが実感できた。


「アホかーーーっ!!!

それでもあんた、果菻の彼氏か!? 」

私は思わず大きな声で怒鳴り上げてしまった。

周りの視線が私たちに集まる。

そして吾嬬は、顔を赤く染めていきながら、

「も、もう少し静かな声で……」

と、これまた小声で言ってきた。

おっと。私、デリカシーがなさすぎたのかな?




「おい、羽璢沙、一緒に弁当食いに行かね? 」

遠くの方から藍翔の声が聞こえた。

私はその藍翔の声の二倍ぐらいの大きさで返事をする。

「あーゴメン。吾嬬と大事な話しながら弁当食べることにしてるから、無理だわ」


女子たちの黄色い声に混ざって、藍翔の舌打ちのようなものが聞こえた気がした。

気のせいかな?

まあいい。今は吾嬬の告白事情について語ろう。


「で? その子の名前は? 」


**


私は放課後も吾嬬の話を聞いていた。

どうやらその子は、

一年の女子で、かなりの美人で、

名前は藤沢ふじさわ 加奈かなちゃんで、友達がそこそこに多い子らしい。


でも、私が真剣な眼差しを吾嬬に向けながら、「果菻はどうなるんだよ」と言ったら、

静かに「藤沢に断わって来ます」

と言ってくれた。

ひとまず安心やな。


その後私は吾嬬と別れを告げて、自分の家に……正式には藍翔の家に帰ることにした。


そこで事件は起こった。


**


いやー、しかし、ビックリしたなぁ。

前々から吾嬬がモテてることは知ってたけど、吾嬬に彼女ができてからは本当に告られたりしてなかったからなー。


ん?

あれは……。


私の目の前には、美男美女が抱き合っていた。

うわぁ。嫌なとこ見ちゃった。

って……あれは……。


美女さんの方は全く知らない人だったけど、美男の方には見覚えがありすぎた。

「藍翔っ!? 」

私は思わず大声で呼んでしまった。

藍翔が振り向く。

私は心の奥の方で、何か黒い雲が出来上がったような、黒いペンキで塗りつぶされたような感じがした。

なんで?

藍翔は私と付き合ってるのに、

今までとまるで変わりがない。

なにさ。

実感わかないんだけど。


「ねぇ、あんまりイチャつかないでよ」

私は今覚えば彼女さんには失礼なことをしたと思った。

彼女さんの前でこんな話を繰り広げるなんて、非常識極まりないよね。

ゴメンナサイッ!

「は?

なんで羽璢沙にそんなこと言われねぇといけないわけ? 」

っ!?

え、なんでって、彼女だからに決まってんじゃん。

まぁ、110、111番目ぐらいの彼女だったけど。

「だって付き合ってるじゃん!

言う権利あるよ? 」

私が少し意地を張り気味に言う。

そうすると藍翔が、頭をクシャリとやって、呆れ顔でこんなセリフをはいた。

「は? 俺はお前と付き合ってねえよ。なに勘違いしてんの」

「え!? 」

え!? 付き合って……ない?

なんでよ。私と藍翔は二人とも

“好き”って言い合った仲じゃん。

両思いとカレカノってちがう?

でもなんだろう。

物凄く、もやっとする。

藍翔の口角が微妙につり上がった気がした。

な、なに……それ。

私は飛んだ勘違い野郎だったってこと?

でも、だとしても許せるわけがない。

私は勘違い野郎? 付き合っていない? なんで……。

他の109人はよくて、私はダメなの?

他の子と違うの? 私は。


「じゃ、じゃあ今付き合ってよ。

両思いでしょ? 」

半分泣き目で言う。

ああ、私、中2にもなって、一人の男に泣くなんて。

その相手がお父さんとか意地悪してくる男子とかでもなくて、自分の好きな相手とか。

私って可哀想な人だなって思う。

自分で言うのもなんだけど。


「仮に両思いだとしてもお前とは付き合いたくねぇ。

“お前は吾嬬と仲良くイチャイチャ”

してりゃあいいじゃん」

っ……。

何それ。酷くない?

そんなもんなの? 男女って。

なんで私は109人も彼女がいる人にフラれるの?

そんなに……ダメ?

「なんでよ、付き合ってよ! 」

私は思わず怒鳴ってしまった。

自分でも思う。なんてガキっぽいのだろうって。


「お前さ。

彼氏出来たことある? 」

え?

急に変な質問が来た。

失礼な。

「いたことあるに決まってる! 」

(だってこんなにモテてるんだもん)

「ふーん。そう。

じゃあお前その彼氏にさ?

『お前って重い女だよな』とかって言われね? 」

「藍翔っ……」

私は喉の奥から声を振り絞って出した。そのままその場を走りながら去る。


頬を生ぬるい水のようなものがつたる。その水が涙だと気付いた時には、もう藍翔は見えなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ