学校裏倉庫にて。
「なに? 呼び出しなんかして」
こんにちは。秕 羽璢沙です。
今は学校裏倉庫にいるんだ。
兄の柊 藍翔に呼び出されたから、しょうがなく来てやってる。
さっきからやけに胸のモヤモヤが止まらない。こんなの初めて。
藍翔は倉庫の中にあるマットの上に座りながら、気味が悪い笑みを浮かべている。なんなの? 異常にキショい。
「俺、カッコよかったろ?
ピンチの状況に駆けつけるなんて、ヒーロだな、俺は」
知るかよ、と思わず言いたくなる。
死ねよ、とも言いたくなる。
私はやっぱり藍翔が嫌いだ。
自分に言い聞かせるように、
心の中で『嫌い』という言葉を何度も繰り返して唱える。
そしてゆっくり藍翔の方を向く。
藍翔は私のことを見つめながらニカッ! と笑う。
トクンッ……。
はぁ? なに、今の。
マジ意味わかんない。
「アホ。
で? なんで呼び出したのよ。
まさかそんなことを言うために連れてきたなんて訳ではないでしょ? 」
ガチャンッ!
と扉の閉まる音がする。
あの扉開けるとき重いから、開けるのが面倒くさくなるな。
藍翔は何か言いたそうな顔をして、
だけどすぐに口を開いた。
「悪かったな、俺の彼女について言ってなくて。
俺は彼女が110……いや、109人か?
まぁいいや。結構いるんだ」
「お前ホントクズだな」
本音がポロリと溢れる。
藍翔は結構ダメージをくらったらしい。しばらく静かになる。
少し罪悪感。
そしてあまりにも静かなもんだから、もう帰ることにした。
**
でもあいつはそんなに彼女できるぐらいモテてるって言うのが現状な訳でしょ? ちょっと悲しい。なんで?
わかんない。
多分あいつのことだから私が告白すればすぐOKしてくれるんだろうなー。
告白なんてしないけど。
でも藍翔のことをよくよく見れば意外にカッコいいよね。性格いいし。
あれ? なんで私、泣いてるんだろ。
**
「……ぃ! ぉぃ……! おぃ……! おい、羽璢沙? 聞こえてんのか? 起きろよ! 」
「え? 」
気づけば藍翔が私の顔の近くに藍翔自身の顔を寄せていた。
目を開けた瞬間に目の前に美青年の顔があったから、思わず後ずさりしてしまう。
「お前、いつまで寝てたんだよ」
「なにが? 」
「……アホ」
藍翔が言うに、わたしはどうやら気絶していたらしい。(マジで!? )
で、気絶するまでの経緯はこんな感じ。
**
「もう帰るわ」
私はツカツカと扉の方に向かっていく。
ガチャガチャガチャッッッッ!
……は?
待って、ちょっと待って、意味わかんない。倉庫の扉が開かないんだけど。意味わかんない。いやマジでホント笑えないんだけど。
こう言うベターな流れとかマジいらない。ホント無理ホント無理ホント無理。笑えない笑えない笑えない。
なんで私がこんなにあわてているかというと、私はこの少しでも狭い空間のところに一定の時間以上いるのが本当に苦手なのだ。
極度の閉所恐怖症。
MRIとか笑ったもんじゃない。
怖い怖い怖い怖い怖い。
私死ぬ? ついに死ぬ? 死ぬの?
ここに仲のいい友達、例えば
私の親友、本谷 果菻とか中山 吾嬬とかが近くにいれば少しは紛れるけど……。
藍翔なんて使い物にならねぇ……。
**
で、怖すぎて気絶したそうな。
それを思い出した瞬間、再び意識が吹っ飛びそうになる。
しかもこの倉庫、薄暗いから余計怖い……。
「おい、大丈夫かよ」
藍翔が意外にガチ顔で聞いてくる。
お? 心配してんのか?
自然と顔がにやける。
「こうなったのも藍翔、てめぇのせいだからな」
低めの声で言う。
「お、おう。悪かったな。
ってかお前、暗所・閉所恐怖症なんだな」
そう。
そのことを忘れてたんだけど、藍翔のせいでそのことを思い出したんだよ。
ホントこいつ、思えば思うほどムカつく。
「あ〜っ!!! もう!!!
お前ほんとムカつくなっ!! 」
そう言いながら思い切り壁を殴る。
が、しかし、その壁は壁ではなくて
体育用具の入っているロッカーだった。
ロッカーがぐらりと揺れ、ロッカーの上にある何に使うかよくわからないバケツと雑巾とほうきがバラバラっと落ちてくる。
うわぁ。なんとベターな展開。
こう言うので大体、一緒にいた男子が助けるんでしょ、女子のことを。
少しばかり藍翔に期待をして、無言でその場に立ったままにする。
しかしその瞬間、頭に衝撃がはしる。
「なんで? 」
思わず本音が漏れる。
こう言う展開で普通は男子が助けるんじゃないの?
なんで頭に痛みがはしるの?
まって、聞いてないよ、こんな展開。
しかし運良く気絶はしなかった。
私は気絶しやすいタイプだから、
(お父さんが死んだ時も気絶した)
気絶しないだけマシだ。
でも本当に藍翔ムカつく。
藍翔嫌い。
なんでこんなクズでカスで私に見合わないような人が私の兄になるの?
所詮顔だけじゃん。
言ってる自分が惨めになる。
なんかなー。
「おい、大丈夫かよ。
自分で自分のこと傷つけてんじゃん。お前アホ極まりないな。
どれ? たんこぶできてねぇか? 」
藍翔がゆっくり私に近づいてくる。
藍翔の手が私の頭に触れる。
その瞬間、藍翔の手を思い切り私が弾く。
パチンッ!
と、高めの音がなる。
「触んな。気色悪い」
ジッと睨みつけながら言う。
藍翔の瞳孔が少し大きくなる。
そして私がマットの近くに移動しようとすると、藍翔に通行止めされる。
通行止め……というか、言い方変えれば壁ドン。
「おい、それはねぇだろ。
お前のこと気にしてやってんのに、
酷くね? 」
その顔が無駄にカッコいい。
心の奥に鉄球が落とされたみたいな感じがした。
ドクンッてなったりなんかして。
なに? この気持ち。
藍翔は真剣な顔で、なおも話し続ける。
「俺、こんなんだけど、羽璢沙のこと好きだし。この気持ちは本物だし」
こんなくさいセリフをはいたとしても、藍翔はイケメンだからなんかカッコいいし……。
「好きなのは私も同じだし」
なにこれ。
お互い告白してんじゃん。
なんか恥ずかしくなってきた。
ほっぺが熱くなる。
おでこに汗をかく。
ダメだなぁ。私、藍翔が好きになっちゃったんだなぁ。
人を好きになるのはこれが初めてだ。
「あっ……。
そのぉ……。羽璢沙? 違うの。
覗き見しようとかそう言うんじゃなくてね、あのー。なんというか……。
ゴメン……」
果菻と吾嬬が申し訳なさそうな顔をしながら倉庫の入り口を開けて出てきた。
……。
「まって、なんで扉開けられたの? 」
果菻達が言うに、まぁベターな展開でして、体育の先生が急ぎの用で、中に誰かがいるとかって確認しないで鍵閉めたらしい。
そして果菻が口を開く。
「うちのお母さんが、
「『藍翔君と果菻がまだ帰らないんだけど、本谷さんのお宅に行ってませんか? 』って秕さんの家から電話がかかってきたんだけど、きてないわよね」って言ってきて、だから学校来てみたらこれってわけで……」
まぁ、それならしゃーないか。
この状況を見られても。
「でも見つかってよかったー。
で?
柊と羽璢沙はどう言う関係? 」
引きつった顔で果菻が言う。
そうなるよねー。
今まで逆に触れてこなかった方がすごいよ。
私はゴクリと唾を飲む。
果菻と吾嬬はどう言う反応をするだろうか。
「あのね……」