小豆のバー
「あー、俺のアイス!!」
金次郎の叫び声が1階のキッチンから聞こえてきた。
2階まで響く声とか、どんだけ肺活量あるんだよ。
そう思いながら、俺は金次郎の好きな小豆バーを舐めていた。
ドタドタドタ、と金次郎の足音が階段を駆け上がる。
それから、バタンと勢いよく扉が開いて、俺は宙に浮いていた。
俺の胸ぐらを掴んだ金次郎が下から睨み上げている。
……いやそれ、ただの上目遣いだから。
俺は小豆バーを銜えたまま、金次郎の輝く金髪をわしゃわしゃと撫でくり回す。
すると、気分を害した金次郎の眉間に深い皺が寄った。
「おい、康介。ちょっと表出ろや」
そのまま、襟首を掴まれた俺は家の外へ。
「何だよ、金次郎」
呆れたように肩を竦めれば、金次郎は舌打ちを返す。
「それは、俺の小豆バーなんだよ!」
そう叫んだかと思えば、金次郎の鋭い拳が俺の頬を目掛けて弧を描く。
それをひょいとかわして、金次郎の口に溶けかけた小豆バーを突っ込んでやる。
驚く金次郎の鳩尾に、俺は膝を入れ込んだ。
ずさぁぁぁ、と吹っ飛んでいく金次郎の身体。
何とか受け身をとった金次郎は、小豆バーを素早く咀嚼したあと、残った木の棒をその辺に捨てて、再び俺に向かって走ってくる。
そこから先は、いつもの喧嘩だ。
殴り、殴られ、俺たちは笑い合う。
「上等じゃねぇか!」
二人揃って口角を上げると、そのまま互いの拳をかち合わせた。
それが、終わりの合図だった。
ぼろぼろになった俺たちは、そのままどこかの家の塀を背に、座り込む。
それから、互いの目を見て、
「金次郎、傷だらけだな」
「……お前もだよ、康介」
金次郎の目元に出来た真新しい傷跡に、俺は優しくキスを落とした。
「んっ……」
金次郎の顔に出来た傷跡全てに、俺は同じように唇を寄ていった。
何度も紡がれる軽いリップ音が、夕暮れの街の中に消えていく。
そして、最後に俺たちは互いの唇を求め合った。
二人の長い影が伸びていった先。
道端に落とされた小豆バーの棒には、当たりが記されていた。