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ある魔王と呼ばれた少女の旅  作者: 鳥居れもん
15/15

そして彼女の世界は続く

「お前は……」

 レイン一行は始まりの村に来ていた。ここで生活していた時と何も変わっていないなと、レインは少しばかりの懐かしさと、大きな呆れを感じていた。

 彼女達は村人達の視線を気にすることなく丘へと向かう。

 そこには手入れの行き届いた墓が立つ。

「ここだ」

「それでどうするんだ?」

「こうする」

 彼女は思い切り墓を蹴り飛ばした。当然壊れたりはしないが、くっきりと足跡が残る。

「あーあ……」

 遠巻きから彼女達の様子を見ていた村人達が彼女達に近づいてきた。

「やはり災いの元だ、お前は」

「神聖な巫女の墓を足蹴にするなど」

 各々が手に持った農具やナイフを見て、レインはため息をつく。

「なんだその態度は……」

 その言葉を言い終えるや否や、村人達の足元が炎上する。

 驚いて飛び退く姿を見て、レインはもう一度ため息をつく。

「あの時まで、私の世界はここだけだった。だから、その世界で絶対の力を持つ貴方達が恐ろしかった」

 あの時の自分には本当に恐怖だった。これ以上恐ろしいことがあるだろうかと思ったほどに。だが、今はどうだろう。彼等があの空を覆うほどの飛蝗達より恐ろしいわけがない。あの奇跡使い達ほど絶対的な力あるだろうか。

「本当にちっぽけ。今は貴方達に毛ほども恐怖感じない。何も知らない、小さな世界で生きる、過去の勇者しか誇ることができない可哀想な人達」

 村人達の顔に怒りと恐怖が入り混じる。

「安心して。ここに来ることはきっともうない」

 彼等を一瞥することもなく、レインは歩き出す。

「ただ、忘れないでほしい。いつでも私は貴方達を見てる。貴方達がこれから生まれてくる赤い子達を迫害するなら」

 その声音は、ドミニクでもぞっとするほど冷たい声だった。

「容赦しない」


「これからどうする?」

 懐かしき魔女の家に立ち寄った一行は換気と掃除を行いながら、これからの話し合いを始める。

「シイエルパの集落に行く」

 レインの言葉に迷いはなかった。

「しばらくそこでお手伝いをするつもり」

「そうか……。君の旅は終わったんだな」

 彼女はドミニクの言葉に笑みを浮かべる。ノワールとじゃれ合いながら、彼女は首をかしげた。

「終わったのか。実感が無いなぁ」

 視線をドミニクに向けると、彼女は決意を語る。

「でも、必ずここに帰ってくる。もし、また村を追われるような子が出てしまったら、私が助ける。赤い髪も、赤い瞳も、呪いなんかじゃないだよって。祝福なんだってそう教えてあげるんだ」

 人と違うことで、辛い思いをすることもある。でも違うからこそできる経験も、出会いもある。

「考え方なんだ。だから、もし辛い考え方しかできないようになってしまっている子が居たら、少しだけでも手伝ってあげたい」

 ドミニクは、自分が笑みを浮かべていることに気づく。

「君は確かに考え方が変わったらしい」

 


 戸締りをすませると、レインとドミニクは馬に乗る。

「ドミニクはまずどこへ向かうつもり?」

「さぁね。決めていないよ」

 詩人はまた新たな旅に出ようとしていた。

「君と魔王の詩を聴きたがるものがいる場所ならどこへでも。剣工の国でも、かの軍隊でも。君の旅を知りたがるだろう」

 レインは照れ臭そうに頬をかく。

「いずれシイエルパにも顔を出そう。その頃には、君の武勇伝も増えていることだろう」

「……元気で」

「あぁ。君も、ノワールも」

 忠実なる獣は軽く一鳴きして返事をする。

「では、先に行くよ」

 彼女が手を振るのに応えて、手を挙げると彼は馬を走らせる。

 静かな午後。ある森の中の小さな別れ。


 これで彼女の魔王の足跡を追う旅はひとまず終わり。彼女はその後、奇跡使い達と共に生活し、シイエルパの赤い客人としていくつか武勇伝を残すことになる。

 かの軍隊とシイエルパが再び共同戦線を張った竜退治の件では、シイエルパの竜狩りだとか、赤髪の戦乙女だの謳われた。

 行くあてを無くした双子の兄妹をシイエルパに迎えるべく奔走し、後々大成する彼らの後見人として、双星の母などと謳われたりもするのだが、まぁそれは別の話だ。

 彼女は自身の力及ばぬ所で迫害されることとなった。それは当然悲しいことで、不幸なことだ。もし、彼女がそれを受け入れてしまっていたらすべては終わっていただろう。

 彼女は幸いなことに、魔女という救いに出会えた。だがそれはきっかけに過ぎない。魔女を亡くしてからはすべて彼女が決めていったことだ。その選択の一つ一つが彼女を、そして彼女の世界を変えていった。

 押し寄せてくる苦しみや悲しみ、そういった物に傷つきながらも立ち向かっていくことで、彼女は知った。傷ついているのは自分だけではないと。

 でも、彼女の旅からみなに知ってほしいのは、皆が傷ついているのだから誰もが傷ついて当然だ、我慢するべきだということではない。

 人それぞれ違う。傷に耐える力も、傷の深さも。

だから大事なのは知ることだ。自分がいる世界の広さを。狭い世界の中で傷つき続けることはない。広い世界へ目を向けていい。

その苦しさを理解してくれるものを探してもいい。そういう人がいることを知るといい。

いつかこの詩を聞いた者達が、彼女が旅を通じて得たもののほんの一端でも感じ、人生に生かしてくれれば幸いである。

完結です。

何か感じることがあれば幸い。

感想だの質問だのあったらお気軽に。

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