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ある魔王と呼ばれた少女の旅  作者: 鳥居れもん
11/15

そして在り方は命を運ぶ

「すまなかったな。我が国は少しばかり過敏なのだ」

 レイン一行は魔王軍誕生の地へと赴いていた。しかし、その国では赤の髪を持つもの。赤の瞳を持つ者の入国は禁じられていた。

「我が国は過去、王族と貴族達によって国が取り仕切られていてな。その当時の王は隣国への戦争を繰り返し、領土を拡大していた」

 門前払いを受けた彼女達を受け入れたのは、国のすぐ外にある駐屯地に駐在する軍人達だった。彼等の長は彼女達を駐屯地へと招き、国の成り立ちを語ってくれた。

「その結果国は栄えたが、次の王は戦争を悪しきものとした。そのことは責められるものではない。むしろ讃えられるべき英断だ」

 しかし、と前置き。

「新たな王は先代王と軍を戦犯として断罪した。先代は処刑され、軍は国を追放された」

 遠く想いを馳せるような視線は、悲しみに満ちていた。

「貴方は、新たなこの国でも、そのようなことが起きるのではと危惧しているのかい?」

 詩人ドミニクはそんな疑問を長に投げかける。

「……この国では戦争は起きないだろう。だが、それは我々の存在意義にも疑問を投じる事実だ」

「貴方達は、軍人である前に人でしょう?それだけが存在する意味じゃない」

 珍しく、レインは口を開く。いつもは大体ドミニクが勝手にしゃべるのでそれに任せている。ただ、長の言葉に口を挟みたくなった。

「そうだな。確かにその通りだ。しかし、我々はこの国を守る存在であることが誇りでもあるのだ。そういう自分達にこそ、価値があると信じている」

 在り方の問題だ。生きているだけで丸儲けという考え方もあれば、その生に意味が伴ってこそという考えもある。彼らは後者だった。と言うだけの話。

「そう」

 納得と言うより、諦観によって彼女は口を紡ぐ。

 その時、部屋へ向かってくる足音。

「隊長、議会から彼女達へ召集が」

 入ってきたのは甲冑を装備した部下らしい男。

「君達の入国を認めるか否かの協議が始まったようだ」

 部下の案内でレイン一行は仰々しい建物へと案内される。実際、この時点で入国自体は出来ている。が、当然その行動は制限されている。

「追い出したと思えば、呼び出したりと、色々すまんな」

 建物のなかはホールのようになっており、何十人もの中年の男達が座る、ホールの中心には一人の男が立っており、彼がレイン達へ詫びる。

「そのまま追い出しておくべきだったのだ。古くから決まっている。赤髪と赤眼はこの国に居れるべきではない」

 どこからか不機嫌な声が飛んでくる。

「古い考えだ。いつまでも人の容姿で差別など恥ずかしいと思わんのか」

 それに返すようにまたどこからか言葉が飛ぶ。

「古い新しいなど関係ない。国に問題が起こり得るなら事前にその芽を摘み、起こり得る問題に備えるのが法だ」

 ドミニクはその光景に少しばかり感動を覚えていた。この世界に存在する多くの国は、王族や世襲制の元首によって統治され、このように多くの人間が話し合いによって何かを決するようにはなっていない。

 人には言葉がある。気に入らない相手を暴力や権力によってねじ伏せるのでなく、言葉で、論理で相対し、納得させる。これこそ知性ある生き物の在り方ではないか。

 対し、隣に並ぶレインは非常に退屈そうな様子だ。

「失礼します」

 ドアが開き、軍の甲冑を身に纏った男が入ってくる。

「報告です。同盟国付近の駐屯地に怪物が襲来とのこと」

「会議中だ。くだらん報告をするな」

報告に対し、どこからかの返答。

 途端、レインと彼女達を案内してきた部下の表情が曇る。

「その手の対策は軍の長に任せてある。こちらへの問題が起きそうなら報告に来るように」

 納得がいかない。顔にそう書いてある部下の男とレイン。

 最初に飛び出したのは部下の方。しかしそれに続くようにレインも飛び出していく。報告に来た男も一瞬迷ったようにホールを見まわしたが、追いかけてるように走り出した。

 一瞬の静寂。

「会議中に出ていくなど、なんという奴らだ」

 ざわざわと話し声が響く中、ドミニクは戸惑っていた。

「確かに、貴方達が言っていることはわかるが、そんな言い方はないんじゃないかい。彼等は命がけの戦いに臨もうとしているのだろう?」

「それが彼らの仕事だ。そしてこれが我々の仕事だ」

 同意のざわめき。

 分かる。言っていることは分かる。それぞれにそれぞれの仕事があり、適材適所の役職で働くことこそが最も効率のいいことだ。

 彼自身、自分の在り方に命をかけることにためらいはない。謳い、語り継ぐことに命を懸けているつもりだ。だがしかし、それは自分のためにかけた命だ。他の命のために、自分の命をかけることとは全くの別だ。

「貴方達は間違ってはいない。だが、それは国を構成する部品としての正しさだ。人として、血の通った存在としては何かが欠落している!」


 レインとノワールは部下の男と共に国の外の駐屯地へと戻ってきていた。しかし、そこにすでに人の気配はなかった。

「隊長達はもう向かったようだ」

 彼はレインへと視線を向ける。

「君は、ここに残るべきだと思う。が、言って聞く目ではないな」

 その揺るがぬ瞳を一目見れば、彼女が折れるタイプではないとわかる。

「こっちだ」

 彼が案内したのは馬小屋。僅かではあるが、繋がれた馬。

「馬には乗れるか?」

 頷きで返すレイン。

「先導する。急ごう」

「ノワール」

 レインの呼びかけに、すべてを察したようにノワールは元来た道を速やかに引き返す。

 彼女は馬に飛び乗ると、部下の先導の元、風のように戦地へと走り出した。

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