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第一脱出実験【鬼ごっこ】其ノ3


 走れど走れど、中々振り切ることは出来ない。

 象が先頭に立ってくれてるお陰で、先程よりかは幾分か動物たちのスピードは落ちてくれているが、それでも人間と動物とでは、体力も持久力も違いすぎる。

 「鴻上くん‼もうすぐ、プールの場所だよ‼」

 「お、そうか‼」

 「ところで、プールでなにするの?泳ぐの?水着持ってきてないんだけど……」

 「こんな状況で泳げるか‼」

 如月風は、とんだ天然っ子なのかも知れない……と僕は思ってしまった。

 僕がプールに向かいたいと思ってる理由としては、先程分かった今回強制させられているルールの裏をかくことが可能だと言う策があるからだ。

 あの動物たちを殺さずに、一網打尽にできてしまうウルトラCってやつがな。

 「あ、鴻上くん‼プールだよ‼」

 「よっしゃ、一丁やってやる……??」

 ん?あれれ?

 「……プール?」

 僕たちの目の前に広がるのは、単なるなにも入ってない数十m四方の溝だ。

 ここがプール?

 「そうだね。プールの水……抜かれちゃってるね」

 冷静に如月は現状について、一言で説明してくれた。

 僕の考えでは、満水近くまで貯まった水を利用して、動物たちを感電させる予定だった。

 感電死に至るレベルの電気は使わないけど、多少痺れて動けなくなる程度で動物たちを痺れさせてしまえば、現状的には一定時間の隙を作れて、その間に食堂まで一気に行けるのではないかと考えていた。

 だが、それはプールの水があってできる事であって、こんな何もない空のプール場なんて、動物たちにとっては四方から迫ることのできる広い空間なだけだ。

 サバンナとかで例えるなら、見通しのよい広い空間にポツンと無防備に立っているようなバカな動物のようなものである。

 警戒しても何をしても……そんなことになってしまえば、囲まれた時点でゲームセット。いいや、ゲームセットと言うよりかは、ゲームオーバーと言うべきだろう。

 「鴻上くん、これじゃあ泳げないね」

 「泳がねーよ‼ってか、そんな事のために来たんじゃねーよ‼どーするんだよ、これ‼」

 地響きは着々と近づいている。

 死神の足音にしては、随分と乱暴な足音だといえる。だが、僕にとっては、僕たちにとっては充分に恐怖を与える足音だ。

 「嫌だ‼死にたくないよぉぉぉ」

 殺人鬼が命乞いをする。

 散々命を奪ってきた側なのに、散々命を狩り取ってきた側だったはずなのに……僕たちは命を奪われる恐怖に満ちていた。

 こんな空のプールでは、物足りないほどに恐怖は心を支配する。

 死の足音は、地鳴りとなって確実に近づいていく。ガタガタと身を震わせながら……互いに目を合わせ、僕たちは覚悟を決める。

 ルール3を余裕で犯す覚悟を。

 動物たちを殺さないように一網打尽にしよう……ではなく、殺してしまおう、一網打尽に。

 「準備はいいかい?」

 「……ええ、殺りますか」

 僕の殺人道具は【電気】。彼女の殺人道具は【カッター】。

 僕たちは挑む……動物たちに。

 

 

 まさにその瞬間だった。

 『ピンポンパンポーン。えー、殺人鬼の皆さん。本日の実験(ゲーム)は、漣豪雨くんが食堂に辿り着いたので、終了致します。お疲れさまでした』

 という、審判者からのアナウンスが流れた瞬間、地響きは止んだ。

 た、助かった……。

 『なお、今回の死亡者は0人でした。流石は殺人鬼たち。おっそろしい~』

 気の抜けるような声に、僕と如月はストンと、その場に座り込んだ。

 「あー、疲れた……」

 「なんか、気が抜けちゃったわ。ふう……」

 『あー、そうだ。これから、動物たちは一斉に処分するからね~ほい、3、2、1……』

 0、のカウントは先程まで追ってきていた動物たちの狂ったような叫び声が書き消した。

 まるで、加工される寸前の家畜のような声を出していた獰猛な動物たちは、その叫び声がまた一つまた一つ……消えていく。

 実験(ゲーム)に付き合わされてしまった、哀れな動物たちは、人間の勝手な行動で一方的に動かされ、そして一方的に殺される。

 なんて、勝手な実験(ゲーム)なのだろう。

 『うふふふ~。あー、いい音。まるでクラシック鑑賞中にヘビーメタルを流されるような不快感溢れる音楽のようだ』

 あー、確かにそれは不快感あるかもな……っていうか、いい音なのか?

 こいつの価値観がよく分からない。

 『さてさて、君たち。1度さっきの広間に集まって貰えるかな?伝えたいことがあるからね~あ、この施設は広すぎるほどに広いから、迷ってしまわないように君たちの持ってる携帯に地図をインストールしといてあげたからね~それ参考にして来てくれ。ただし、その携帯からは外に連絡する事は出来ないし、ネットには繋げられないから~悪しからず~。んじゃ‼』

 ブツッと、アナウンスの音は消えた。

 僕はポケットからスマホを取り出して見てみると、確かに……画面には地図が映し出されている。

 そして、先程言ってた通り、電波はあるけど、ロックされてて電話機能が使えないし、インターネットに繋げることが出来ない。

 どういう仕組みなんだ?

 「如月さん、とりあえず広間に向かう?」

 「そうね」

 僕は如月さんに手を差し伸べ、すっと彼女を起こすと一緒に広間へと向かったのだった。

 

 

 通路は血塗れだった。

 動物たちの死骸がどこにいったのか……それは実際に見ていないから分からないけど、いつも嗅いでる血の匂いで満ちていることから、確実に死んだことは確証できる。

 いやまあ、流石に通路を軽く浸しているような血がそれを物語っているのだ。

 びちゃびちゃ、っと血の通路を歩きながら、僕たちは広間へと向かった。

 流石の殺人鬼もビビったのか、如月さんは僕の手を離してくれないんだけど、そりゃそうか。

 女の子だもんな。

 「如月さん、大丈夫かい?」

 「う、うん……大丈夫。えへへ」

 なぜ嬉しそうなんだ?

 よく分からないな……女の子は。

 「あ、見えてきたよ」

 「え、うん……」

 なんか気落ちしたみたいで、彼女は通路を出るときには、僕の手を離して、スッと広間へと入っていった。

 広間には、もう僕たち以外の人は集まっていた。

 殺人鬼たちが、ずらっと勢揃いだ。

 ここにいるメンバー全員をもしも、警察官が捕まえたとしたら、警視総監レベルの表彰になるほどの殺人鬼たちだ。

 「ほら、遅いよ。君達」

 白く、高そうな和服姿の女性……【雪女事件】の犯人「東雲氷河」はギロリとボクたちを睨み付ける。

 流石は殺人鬼……殺気が怖いぜ。

 「も、申し訳ないです」

 僕はペコリと頭を下げ、広間の中央へと向かう。

 すると、ブツッと照明が落ち、モニターに、審判者が映し出された。

 今度は切り落とされた自身の首に、赤ワインを注いでいるところだ。

 『ヤッホー‼みんな~。【鬼ごっこ】お疲れ様。どうかな?アドレナリン出まくって、あひゃっふぅ……興奮して濡れてきちゃった……』

 変態だ。

 この蜥蜴、変態だ。

 『さて、君達は無事に今回は生き残れてしまったようで……まあ、死んでも差し支えないような犯罪者なのだけどね~』

 なんか、ちょくちょくディスられてるな。

 腹立つわ。

 『んじゃまあ、この施設について改めて説明させていただくよ~』

 そう言って、審判者はワインを注いでいた首をモニター越しからこちらに向かって投げつけてきた。

 すると、画面は切り替わり、施設内のマップと説明文が出てきた。

 『この施設の場所は不明。施設は2階以外が【実験】時間中の逃げ場とする(2階は居住区、実験時間中は閉鎖される)。この施設の出口には7つのパスワードを入力しないと開かない扉がある。実験後に発表されるパスワードは自動的に扉に入力されていく。7日後、最後の実験が終了すると同時に出口の扉は開かれる。扉が開かれた1時間後、施設は自動的に破壊される(なお、生存者用に脱出用のポッドは施設内にも存在するが、7日目の実験終了後のみロックが解除される)。実験中にルール違反をした場合、即座に【(おたのしみ)】が執行される。この実験(ゲーム)は最後の1人になり、これ以上の実験が不可能になった場合はその時点で終了となるが、ペナルティーとして警察に引き渡される。と言うのが、主な決まりごとになるからね~』

 「ふざけんなよ‼いいから、ここから早くだせよ‼」

 そう言って【血熊事件】の犯人染町モニターに向かって、殺人道具【入れ歯】を投げつける。

 すると、画面が切り替わり、再び審判者が映し出される。

 なにか、ボタンを持っている。

 『君君~うるさいから、ちょっと(おたのしみ)を試しに受けてみようか』

 そう言ってボタンをポチっと押す。

 すると、染町のいたところがぽっかりと穴が空いて、染町は悲鳴をあげる前に穴へと落ちていった。

 『あー、心配しないで。直線的な穴じゃなくて滑り台的な穴だから』

 「えっと……審判者さん?この穴はどこに通じているんですか?」

 【刀狩り事件】犯人である黒いコートを羽織る諜報員風のスーツ姿で刀を背負った女「真宮斬姫」は審判者に尋ねる。

 審判者は、嬉しそうな笑い声を高らかに上げながら『まあ、今から見せるから』と、モニターの映像が切り替わる。

 そこに映し出されているのは、野太い悲鳴をあげながら未だに落ち続けている染町魔熊の様子だった。

 「長そうな滑り台ね~何mあるの?」

 『お‼いい質問だね、如月風さん。この滑り台はね、全長500mの巨大な滑り台さ』

 500mって、長すぎ。

 あと、如月さんもなにを気にしてるんだよ、そこじゃないでしょ知りたいのは。

 『お‼そろそろ、到着したようだね』

 と、審判者が言う頃に、染町は地下の空間に到着した。

 辺りをキョロキョロと見回す染町の声はこちらには聞こえないが、なにやらまた怒号をあげている様子だ。

 カメラ越しに、口を大きく開けて何かを訴えている。

 『さあて、【血熊事件】の犯人である染町魔熊くんに与える【罰】は、じゃじゃじゃじゃーん‼【ルーレット】スタート‼』

 画面が再び切り替わり、不気味なシルエットの描かれたルーレットが回り始めるのと同時に、審判者は首をバスケットボールを回すように手でぐるぐる回す。

 染町の様子も映し出されており、染町の口元が「ストップ」と言うと、ルーレットはゆっくりと止まっていく。

 そして、マネキンのようなシルエットに止まると、ファンファーレが鳴り響く。

 『おめでとうございまーす‼今回の【罰】は、「着せかえ人形♥」に決まりました‼』

 名前から既に不気味感が(いな)めない。

 そして、モニターは大々的に染町を映し出す。

 染町は息絶え絶えに周りを見回すと、その前には檻が広がっていた。

 『おっと、君達にも聞こえるようにしてあげるね』

 審判者は、手にしていたリモコンのボリュームボタンをポチポチと押す。

 確かに、向こうの音が聞こえる。

 『おい‼さっきのルーレットは何だったんだよ‼返事をしろよ‼』

 『ん?なんだ?』

 『おい、なんだよ……なんなんだよ』

 画面越しでは見えにくい……が、染町の前になにかいると言うことは分かる。

 『おい、来るな‼あっち行け……』

 なにかの影はどんどん大きくなる。

 『ふ、ふざけるな‼や、やめろ‼お、俺が悪かった‼頼む‼もうしないから‼』

 染町は涙ながらにカメラに向かって懇願している。

 だが、審判者はなにも言わない。

 なにも返事をしない。

 染町の映っている画像の隣で、ポップコーンを自身の首に詰めて、遊んでいる。

 『う、う……や、殺ってやる‼そうだ、俺は殺人鬼だ。殺ってやる殺ってやる殺ってや……』

 ぐしゃ……っと、染町の左腕がもげて、映像画面に飛んできた。

 血しぶきが見える。

 『ぎゃぁぁぁぁぁ‼』

 染町の叫び声が、そのあとぐちゃぐちゃっと嫌な音が鳴る。

 そして、染町の声は静かに消えていったのだった。

 『あー、大丈夫。染町くんは死んでないよ~とりあえず、左腕をもいであげただけ。代わりに、マネキンの腕をつけといたから。単にそれだけ~えへへ。死んだと思った?まさか‼これはほんの見せしめだよ。いい?分かった?君達は、おいらに逆らったらこうなるってことが……お前らはおとなしく実験をするしかねーんだよ。うふふふ……うふふふ……あはははは‼』

 シーンと静まり返る空間に、審判者の声は響き渡る。

 僕たちはこれから、この実験をあと6日もしなければならないのだ。

 果たして僕たちは生き残れるのか……それは、僕たち次第と言う事かな。

 とりあえず、僕の心は決まった。

 どうにか、生き延びて審判者を殺してやると言う、目標ができたお陰かな。

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