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第一脱出実験【鬼ごっこ】其ノ1

 目が覚めると、白い壁の部屋の真ん中にポツンと僕は眠らされていた。

 ここはどこだろうか、という疑問より僕の頭は先程の黒スーツの集団を殺すことしか頭になかった。

 絶対殺す絶対殺す絶対殺す……とまあ、可愛いことを思いながら、僕は起き上がった。

 とりあえず殺意はまずは置いといて、今自分の状況を再度確認した。

 服装は拐われたときと同じである。

 横腹にはスタンガンを当てられたときについたと思われる火傷の痕。

 他に外傷は見られず。

 腕や足に拘束はされていない。

 変な装置、変な首輪など怪しいものは取り付けられていない。

 周りは壁から床まで真っ白。

 出口と思われる付近に番号を打ち込み開くと思われる電子ロック型の扉がある。

 他には何もなし。っとまあ、こんなところかな。

 「やれやれ、早いところ帰んないとバイトに遅れちゃうよ」と、こんな状況下でも僕は落ち着いて、扉の前まで行って番号を打ち込む……何てことはせずに、電子ロックに電流を流し込んでロックをぶっ壊して扉を無理矢理解除した。

 いやほら、いちいち番号なんて調べてる暇なんて僕にはないわけだし、それにこうした方が手っ取り早い。

 監視カメラとかも無いようで、そのまま扉をくぐって僕は走る。

 長い長い通路を抜けた先、大きな広間へと出た。

 そこには、僕と同様に閉じ込められていたと思われる人たちが集まっていた。

 ずいぶん個性的な感じだ。

 「あれれ?君も閉じ込められてたの?」と、そんな個性的な面々の中でも、カッターで常に自分の手を切りつける仕草をしている黒い喪服のようなドレスを着た女性が僕に話しかけてきた。

 「……はい。そのようなんですよ」と、僕は冷静に笑顔で答える。

 「へぇ、あ!自己紹介するね。私の名前は如月風(きさらぎふう)。大学生やってます」

 「え、そうなんですか?僕も今大学生です。えっと、名前は鴻上雷(こうがみらい)っていいます」

 「えー、まじか!やった!他の人たち、歳が少し離れてて、なんか話しかけにくかったんだ~よかった。同い年かそれに近い子がおって~」

 「ところで、ここはいったい?」

 「私も分かんない。分かるのは、黒い服のやつらに眠らされた後、白い部屋で目が覚めて、脱出したらここにたどり着いたって感じなんだよね」

 他の人たちも、そんな感じだろう。彼女の話を聞いても、誰も反論しない。というか、誰も話しかけてこないな。

 確かにこりゃ、話しかけにくいよな。個性が強すぎる面々の中でも、如月さんは特にそれが強い傾向だからな。

 『ザーザー。えー、テステス。こちらマイクのテスト中‼みんな、聞こえるかな??』

 唐突に流れた声に、その場にいた全員が声の方へと目を向ける。

 この広間の少し上の方に設置されているモニター。そこには、首のもがれた蜥蜴(とかげ)の人形をデフォルメしたような愛らしいキャラクターが映し出されている。

 なんというか、猟奇殺人鬼がこんなことを言って良いのか分からないけど、演出が猟奇的だ。

 『えへへ。みんな、観てくれてるみたいだね。それじゃあ、お集まりの皆さん初めまして‼おいらは君らをここに集めた【審判者(シンパンシャ)】だ』

 あんな猟奇的な審判者がいるかよ。

 『さてさて、君らは年齢も性別もある程度バラけているけど、決定的なまでに同じところがあるメンバーなんだけど、果たしてそれが分かるかい?』

 知らねーよ。

 早く帰らせろや。

 『えへへ。実はね、君たちは全員が全員殺人鬼なんだよ。それも、普通の殺人じゃなくて、猟奇的殺人を犯す猟奇殺人鬼‼おったまげたね‼警察がここにいたら喜んでしまうほどのバーゲンセール状態なまでな面子だぜ』

 「な……」

 「「なんだって‼」」

 と、全員が声を揃えて言う。

 そりゃそうだ。

 全員が全員殺人鬼……しかも、猟奇的な殺人を犯す者ばかり。

 『謎の虎のような切り傷と被害者を感電死させる【雷虎事件】の犯人「鴻上雷」くん。まるで鋭い刃物で斬られたような斬殺死体の血で現場を彩る【鎌鼬事件(かまいたちじけん)】の犯人「如月風」さん。亀の甲らのような状態を演出し、コンクリートで圧死させられた死体を砂浜に放置する【玄武事件(げんぶじけん)】の犯人「漣豪雨(さざなみごうう)」くん。冬場の東北地方のみで発生する、雪だるまに埋められ、キスマークをつけられた凍死体のオブジェで有名な【雪女事件(ゆきおんなじけん)】の犯人「東雲氷河(しののめひょうが)」さん。熊に襲われ内蔵が食い散らかされたような死体を川の側に放置して血の川を生む【血熊事件(ちぐまじけん)】の犯人「染町魔熊(そめまちまぐま)」くん。人間の首を切り裂き骨を抜き取り刀の形に変えて、死体の心臓に突き刺す【刀狩(かたなが)り事件】の犯人「真宮斬姫(まみやきりひめ)」さん……そんな6名で今回の実験(ゲーム)は進行させてもらいますからね~』

 そういって、審判者は高笑いをモニター越しから僕たちに浴びせるのだった。

  

 『それじゃあ、みんな~今回の実験について説明するね』

 コミカルに自身の切り落とされた首でリフティングをする審判者は引き続き語る。

 『今回の実験(ゲーム)は、脱出実験(だっしゅつゲーム)になります。って言うか、それ以外はやる気ないからよろしくね~』

 何で急に投げやりに……。

 『全7日間に渡って、1日ごとに実験(ゲーム)を行います。まず初日の実験としては【鬼ごっこ】です。みんな子供の頃に遊んだんじゃないかな?楽しいよね~鬼を決めて、蜘蛛(くも)の子を散らすように、逃げ回って逃げ回って、そして適当に疲れるまで続けて、時には騙して時には罠にはめる子供の残酷な遊び……だね』

 いやいや、説明に悪意しかないよ。

 『さて、そんなそんな残酷な遊びを今から君たちにやって貰うからね~ってか、強制だからよろしくね』

 「は??ふざけるなよ!」

 【血熊事件】犯人「染町魔熊」は、細身で弱々しい姿からは想像出来ないほどの怒号をモニターに浴びせた。

 【血熊事件】……それは、獰猛な動物の仕業に見せかけた連続殺人事件につけられた名前である。

 かつて、北海道で起こった獣害事件である三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)……これを、モチーフにしたと思われるのがこの血熊事件だ。

 被害者は全員が女性……内臓を食い破られたようにした惨い死体が、川に捨てられ、血で真っ赤に染まる。

 それに集まる飢えたカラスや野良犬野良猫……死体は余計に荒らされ惨さを増す。

 それが、「血熊事件」。

 当初警察やメディア関係者は、筋肉質で高身長の男の仕業ではないか、と言う風に公表していた。

 だが、実際は違った。

 今、目の前にいるこの怒号をモニターに浴びせた細身の男こそ、その猟奇的な殺人事件の犯人であるのだ。

 『ふざける?おいらはふざけてなんかいないよ~ただ、単純に君らを玩んでるだけだよ』

 「なんだと!人権侵害極まりない‼」

 『うるせーな。殺人鬼の分際で人権侵害なんて言葉軽々しく使ってんじゃねーよボケが‼』

 審判者は、突然声を荒らげた。

 おっと、手厳しいことを言ってるようだ。さすがの「血熊事件」の染町魔熊も言い返せないようだったようで、その口を閉ざした。

 『えっと、ごほん。さて、じゃあ今回の実験(ゲーム)について、君らが勝つためになにをすれば良いのか、を説明するね~』

 そういってモニターにはこの【鬼ごっこ】のルールについて書かれていた。

 『第一脱出実験【鬼ごっこ】。ルールその1「ゲーム開始後、施設内の扉は解除されますが、同時に獰猛な動物を放ちます」。ルールその2「獰猛な動物に捕まった場合はその場でその動物はあなたを食い殺します」。ルールその3「その動物は殺しても構いませんが、その動物を殺すと他の動物はその場に一斉に集まりますのでご注意下さい」。ルールその4「指定された区域内に誰か1人でも辿り着いた時点でゲームは終了されます。終了後動物たちは殺処分しますのでご安心ください」。ルールその5「武器の使用はOKです」。ゲーム終了後にはこの施設内から出るためのパスワードを教えます。7日間全てのゲーム終了時点で施設内から出ることが可能になりますので、是非是非生き延びてください』

 ガチャっ……と、全ての扉は開かれた。

 そして、モニターにはこの施設の構造と僕たち一人一人の名前が表示されたマーカーが映し出されている。更に「鬼」と表示されたマーカーも……それは、この広間へと一斉に押し掛けてきている。

 『さあさあ、みんな!逃げろ~今回の区域は「食堂」だよ。果たして生き残れるかな~そんじゃ、ばっいばーい』

 と言い残し、審判者は、モニターから姿をくらませた。

 モニターに映し出されているのは、地図とマーカーと、そのゲームを終了させるために行かなければならない区域が点滅して表示されている。

 「お、おい冗談だよな?」

 「嘘……だよね?」

 「いやいや、それなら……」

 「いやともかく……」

 流石の僕ら殺人鬼も動揺してしまっている。そんな中で、自然と全員が全員武器を身構えていたのは、防衛本能と言うやつなのかな。

 初対面にして、それが殺人鬼だった場合の心理状況。そりゃあ、信用できませんって。だって、殺人鬼だもの。

 「と、とにかく!俺はこんな実験(ゲーム)ごめんだからな!」

 そう言って染町魔熊は、手にしている鋭く尖った鋭利な刃物で敷き詰められた入れ歯を持ちながら、出口の方へと向かう。

 そして染町は広間から出かけたところで、獣に遭遇してしまったようで叫び声が広間まで届くのだった。

 「ぎゃあああああああああああああああああああああああ‼」

 と言うサイレンのような声に導かれるように、僕たちは染町の向かった通路へと向かうと、そこには3メートル近い大きさの(わに)と対峙する染町がいた。

 「なんで、なんでこんな猛獣が‼」

 と驚いているのも束の間、鰐の後ろにはライオンやグリズリー、チーターや(おおかみ)なんかも見える。

 まだまだ、いそうな感じがする。

 さっきの審判者の説明が本当だと言うことが今、ここに証明されている以上……さっきのマーカーの数から言えば、100はいるはずだ。

 「ちっ!なんで、こんなことに……」

 舌打ちをする染町に鰐は、その強大で強力な牙を突き立てようと素早く接近する。

 だが、染町はそれを許さない。

 持っていた入れ歯を、鰐目掛けて投げつける。

 その入れ歯は普通の入れ歯ではない。

 鋭利で鋭利すぎるほどの刃物が敷き詰められている入れ歯……その入れ歯は鰐同様に口を開き、鰐の喉元に噛み付き、食い千切り、鰐を貫通して奥にいた一部の動物の喉元に噛み付いたところでようやくその動きを止めた。

 これが、「血熊事件」犯人の「染町魔熊」の殺人道具(さつじんどうぐ)である【入れ歯】か。

 すごい威力だと、感心しつつうかうかはしていられない。

 あのルールが本当だと証明されている以上、ルールその3が今まさに起こるはずなのだ。その証拠として、施設中が揺れるほどの地響きがこちらに向かって近づいている。動物たちが一斉に押し掛けてきているということなのだ。

 「お前ら!急いで引き返して、別のルートへ走れ!」

 そう染町が言う前に、僕たちは別の通路へと走り始めていたのだった。

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