マグナ・カルタとルールブレイカー~神への咆哮と叛逆の狼煙~(笑)
第二章、というより外伝、というよりifストーリーです。
この章は談話同好会の日常をテーマとしたアンソロジーとなる予定です。
短編とも言えぬ掌編、寸話がほとんどとなると思いますのでそこのところご了承ください。
手軽に読めるものを上げていこうと思っておりますので細やかな暇をつぶす際にでもお読みください。
では、一話目をどうぞ。
「どういうことだこれはッ!」
第二会議室――談話同好会の会室でその声は谺した。
俺は立ち上がって叫ぶその声を鳥のさえずりのごとく無視し、自分の席(入り口から見て左側)で読書をしている。
「どういうことなんだこれはッ!」
体育会系教師の説教のような声量――そんな声の反響は繰り返される。
音源は奥の席。会議で議長が座るべき席からその大音量は発せられている。
本から顔を上げると、対面の机の席――二つの席に座っている女子が目に入る。
一人はロングの髪に軽いウェーブのかかった垂れ目の女子。暢気そうで何を考えているかわからない彼女は七鳥ことりだ。
もう一人はショートボブの髪に児童のようなくりくりしたお目々を付けている活発そうな女子。名前は花崎咲だ。
七鳥は現実では誰もしそうにない、頬に人差し指を当てる所作で「どういうことなんでしょうね~?」と言って首を傾げている。
花崎は出入り口の引き戸の方へ顔を背け、まるでくすぐりを我慢するかのように体をぴくぴく震えさせながら「ぷくくくくく……!」と笑いをこらえている。
俺は二人の美少女を見て、全く眼福に与れたとは思えず、あまつさえ、先ほどから感じながらも無視し続けている頭痛(のようなもの)がひどくなるのを覚えて、片手でこめかみを押さえた。
「どういうことなんだよッ、これはッ!」
いい加減無視し続けるのもきつくなってきた大音量スピーカー(のようなもの)へ顔を向ける。
すると、そのスピーカーはアンダーリムの眼鏡を掛けていて、その奥の瞳は円く輝いていて、高いところで結ったポニーテールはぽにぽに揺れていて、それがしっぽのように揺れるたび猫じゃらしを前にした猫のように釘付けになってしまって、でも熟考えてみると僕はもうすでに椅子に釘付けになっているじゃないかと思い直してしまって、そんなことを考えていたらいつの間にか自分のことを僕だなんて呼び始めていることに気づいてしまって、俺は僕とともに自分の中の純情少年をおえっと吐き出してゴミ箱に打ち捨てた。
俺はハイレゾスピーカーに向かって、
「うるさいです、部長。さっきからなんなんです? 迷惑なんですけど」
と嫌悪感を全く隠さずに言った。
そうすると部長は、俺と数秒視線を合わせたあと、
「うるさい、だと……?」
とまばたきもせずに口にし、
「うるさい……だと……?」
と目を見開いた。
かと思うと、
「君は! この一大事に何を細いことを言っているんだッ! この、潔癖症気質
の空け者がッ!」
大声で指差して罵倒された。
俺は、額の静脈がぴくっと反応したが、なんとか浮き出るのを抑えて言葉を返した。
「……一大事ってなんなんです?」
あと空け者ってなんなんです? ……話しかけて反応し始めたと思ったら空け者。その言い草はなんなんです? 日○レのお昼の看板番組でもその言い草はないと思うんです。
「一大事は一大事だよ一大事!」
三度も繰り返す部長。そんな言わんでも聞こえとるっちゅうねん。
「だからその一大事ってのはなんなんです?」
内心呆れつつももう一度聞いた、
「だから、一大事は一大事って言ってるじゃないか一大事!」
またも繰り返す満月さん。なんか最後の一大事だけ使い方違ってきてるし。言っとけばいいとでも思ってんのか。
「だから、何が一大事なんです? 具体的に言ってもらえないとわかりませんよ。テレパシーとか使えるわけじゃないんですから」
俺が学園都市の○力者ならまだしも、そんなつうかあの対応なんてできるわけないだろ。長年連れ添った夫婦でもあるまいし。
部長はエキサイトしたまま口を開き、
「一大事というのは! ほら、そら、その、あれだよ! あれ! ……。……あれ……? なんだっけ……?」
途端にきょろきょろしだす。
「ぷくくく……」
花崎が口をつぐんだまま笑っている。
「なんだっけって……。一大事なのにもう忘れたんですか……? 大丈夫ですか頭……」
心底部長の記憶野を心配して言った。
部長は腕を組んで考えだすと、
「あ!」
と言ってポンと手を打った。
「あ?」
と聞き返すと、
「これだよ! この、この状況! この状況が一大事なんだよ!」
また騒ぎ始めた。
「この状況? この状況の何が一大事なんですか? いつもと同じだと思いますけど」
そろそろはっきりした答えを出してくれないと、募り募ったイライラが小爆発してメントスコーラになりそうなんだけど。
「君は! おかしいと思わないのか!? この、この状況をッ!」
喚き散らすまんなんとかさん。いきなり大声で喚き始めるあなたのほうがよっぽどおかしいと思うんですが、どうなんですかねえ?
「この状況って……いつもと同じ談話同好会じゃないですか」
「違う! そこから間違っている! そもそもまだ談話同好会は作られていないんだ! いやたしかに作られているが……、あのクソ作者は談話同好会が作られる経緯を書いていない! つまり今の状況に至るストーリーは書かれていないんだよ!」
大声で言い募る部長。俺は慌てて言った。
「ちょっと待て。ちょっとでいいから待て」
そう制してから続けて、
「部長……それは俺達が触れちゃいけない――マジで触れちゃいけない禁忌な気がするんですが、そこらへんどうなんですか?」
至極冷静に、諭すように聞いた。
しかし部長は、
「禁忌、だと……? そんなのッ、どうでもいいんだよッ! そんなことより! 本編が私の話でいい話的に終わったはずなのに、いつの間にかタイムスリップして何でもない日常回に挿げ変わっている――挿げ替えられていることの方が大事なんだよッ! この、クソ作者今すぐ目の前に出てきて土下座百連発しろッ!」
噴火した火山のように憤慨する。
俺はそれを聞いて納得した。
「ああ。つまり、自分の話がぞんざいに扱われて不満なんですね? 部長は」
この俺の発言も最早禁忌のようなものだが、部長が完全にマグナ・カルタを無視していらっしゃるので、もうこの際気にしないことにする。
「不満? 不満どころじゃないよ! 最早憤懣だよッ!」
……あ、今私上手いこと言った、と続ける部長。大して上手くない。
「しょうがないですよ。今のこの状況は、『談話部』の話のあと――それも『談話同好会が作られている』、という仮定の上に成り立っているんですから」
つまり、今のこの世界は、『談話同好会が作られているとすると』と仮定した、『if』の世界なのだ。それも、作者の気まぐれで適当に日常の一コマや二コマを描くという、四コマ漫画のノリ。本編の最後から考えると、なんとも締まらない、ただでさえゆるゆるな部分がさらにゆっるゆるになりかねない――というかほぼなるであろう日常回、が描かれるらしいのだから部長の不満も順当なものなのかもしれない。
「わかっている。わかってはいるが、中のキャラクター――得に私などはそれで納得するわけがないだろう。それもこんないきなりの展開では」
急に平静になって意見を述べる。ほんと感情の起伏が激しいな。富士山なみの起伏に俺はリタイアして下山したい気持ちです。
「まあまあ、まだ活躍できるだけましじゃないですか。そう考えるほうが、建設的ですし」
そう賺すと、部長は部屋の天井の中央辺りをきっとにらみ、
「覚えてろよッ! この借りはいつか返してやるからなッ! このアンポンタンッ! おたんこなすッ!」
締まらない罵倒を飛ばして席にどかっと座り「ふんっ」と鼻息を鳴らした。
七鳥は首を傾げ、「私には難しい話ですね~」と間延びした声で言い、花崎は部長の意味不明な行動を見て「ふひひひひひ……!」と腹を抱えていた。
どうやら、神のお告げは俺と部長にしかなかったらしい。
その神は、何のためにこの状況を設けたのか。
ただの気まぐれでこの世界を構築したのか。
もしそうなら、俺は神にこう言わざるをえない。
――向こう見ずの唐変木。
――お前は神じゃない、ただひとつ上の次元にいるだけの存在だ、と。
だから俺はお前をこう呼ぼう。
―― 俯瞰者、と。
「このおたんちんッ! スカポンタンッ! 脳足りんッ! あほんだらッ! トンチキ薄馬鹿ひょうろく玉ッッ!」
ノルー……。
……締めさせてぇ。
「書くものないから談話同好会の日常でも書こうかな」、と気まぐれに思いついてできたのが今作です。
突貫工事でできた掌編なので粗が見つかるかもしれません。その時はご指摘くださればありがたいです。
小説におけるタブーを犯していそうな今作ですが、どうだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今回、禎生と部長は天との意思の疎通ができていたようですが、これは、今回限りの特別な措置です。
次回からは彼らの記憶はいいように改ざんされているのでそこのところご了承ください(たまに改ざんが行き届いていないこともあるかもしれませんが)。
次も気まぐれに思いついたネタ、もしくはネタすらない話になるかもしれませんが、気まぐれが起これば筆を執ると思います。
その時はまた目を通していただければ、無上の喜びであります。