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これから語るのは、後になってわかったことだ。
まず、部長は先生が裏で動いていたことは知らなかった。
次に、部長が俺の名前を知っていたことについて。
悠に三日月のことを訊かれた時、部長が反対に訊いたらしい。
しかし、そうすると、部長は、悠が俺のことを知っていると承知していたことになるのだが、実際そうだったようだ。俺が部活見学をする前に悠と話していたのを見聞きしたらしい。
そこからさらに考えられるのは、悠が談話部と部長のことを調べているのであれば、部がないこと・自分が三日月及び部長であること・普段は違う気質であること、それらが俺にすぐバレてしまう可能性を、部長がわかっていたということである。これもその通りだったようで、部長は悠に遭遇しなければ、自宅前で全てを明かし、その上で同好会の構成員を頼む予定だったらしい。
入部を決めた日、部長はいつ容姿を変えたのか、という疑問について。
俺は付けられる前かと思っていたのだが、部長は全きを期せておらず、手抜かりがあった。
一つは部活初日のように髪型を変えていなかったこと。
もう一つは部長が俺を気絶させ、第二会議室へ移動させてから別人を装っていたこと(つまり尾行中に誰かに見られていた可能性があるということなのだが、悠の一日の調査では運良く引っ掛からなかったらしい)。
自分のことを知らないとは言え、どこかで見られ、容姿を覚えられているかもしれない――部屋に着いてからそう思った部長は、眼鏡を掛け、変装することにした。そして、部活初日は外出時のことも考えて、髪型も変えた、というわけだ。
部長はいつからだます気でいたのか、という疑問について。
それは最初からである。俺に声をかけ、第二会議室で勧誘するつもりだった。想定外だったことは、俺と衝突してしまったことで勧誘が後ろ倒しになってしまったことと、先述した変装の要不要に後から気付いたことだ。
俺が部長に手渡した入部届について。
取り立てて言うほどのことでもないが、部長が俺から受け取り、直隠しにしていた。
部がなかったのであれば、第二会議室とは何であったのか、という疑問について。
第二会議室は、部長が偶さかに見つけた、常時鍵のかけられていない部屋だったに過ぎない。つまり第二会議室を部長が使用したことは、偶然の然らしめるところだったというわけだ。しかしその行為は、談話同好会設立の咽喉を扼するものでもあった。
部長は、先生に顧問を頼んだ時、普段使われていない第二会議室を使わせてほしい、と告げていたようだ。
勧誘をした生徒について。
俺・七鳥・花崎は別々のクラスだった。もちろん、部長も俺達とは違うクラスだった。
では喫茶店のバイトはと言うと、七鳥以外が他校の生徒で、彼女らは部長のことをなんら知らなかった。
先生の言っていた、部長のダリに似ている点について。
ダリにとって、奇行が自らを守る鎧・仮面であったのに対し、部長にとっては美人で良い人の三日月がそれであった。そしてそれこそが、両者の相通ずるところだったのである。しかし部長のそれは、人間の誰しもが無意識的に形作り纏っているもので、ざらにあり、おかしいものではない。そういった意味が、先生の言葉には込められていた。
それなら、部長はどこが変人なのか。先生が言った、「変人」、この言葉にも、二重の意味が込められている。
――本性も変人かもしれない。
しかし、先生が言いたいことはそれではなかったのだ。
部長の変人の部分。それは、自分を出さなすぎるところ。先生が言いたかったことは、おそらくそれだろう。
枝葉ではあるが、最後に。
悠のノートには、ランキング1位と書かれていた。
真相の解明についての解説、というほどでもない、種明かしのようなものでした。
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