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談話部  作者: BlueTlue
談話部~部長が○○すぎて困っています~
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 図書館に着くと、三日月さんは駐車場の前で立ち尽くし、入り口を見た後に建物全体に目を向けた。それが終わると、また次の場所へ向けて歩き出す。

 きっと、というかそれ以上の確率で、次の行き先はモモ&ココだろう。その次にどうするのかは予想がつかないが、ほぼ確定だと思う。

 即かず離れず付いて行きながら、図書館で起こったことを回想した。

 まず、部長が迷子になった。本を返却して振り返ったら、忽然と姿が消えていたのだ。部長は奥の席に陣取り、図鑑とにらめっこをしていた。その行動もかなり常軌を逸したものだったが、どうやらどこかで計算をしていたらしい。花崎が座っている席の隣の机に陣取るという行為がまさにそれだろう。

 部長は花崎が笑いやすい人間だということをあらかじめ調べていたのかもしれない。その上で、俺を緩衝材とし、笑いのツボを刺激することで打ち解けようとした。ふざけたやり方だったが、部長の思惑は結果、当たった。

 俺を間に入れたのは他にも意味がある。部長は、花崎が三日月を知っているか否かの判断がついていなかったため、俺を利用して小手調べをしたのだ。そうすることで、変装がばれていないかを判断し、三日月を知っているか否かも探りを入れた。ほとんど賭けのような企みではあったが、部長が、図書館に足繁く通っていただろうことを加味すると、それも目論見通り、と言えるだろう。


     ※


 商店街に入り、まだそれほど混雑していない人波をすり抜けると、モモ&ココに到着した。

 例のごとく三日月さんは店内を見やり、ただそれのみで中に入ろうとはしない。

 俺は、店内であの女性店員と客が仲良く話すのを眺めながら、疑問と格闘を始めた。

 正直、昨日の出来事の中でここに来たことだけが合理的でない。全体的に見ても行き当たりばったりで計画性がないように思えるが、目的だけは達している。しかし、ここに来たことはなんの成果も残していない。

 ここであったことはなんだ……。店員と仲良く話した。猫と戯れた。あとは……そう、部室でできなかった自己紹介をしようとした。だが部長がまたふざけ、結局お流れとなった。

 この場所のキーワードはまさに猫。それしかないだろう。猫、ねこ……。猫という単語が出てきたのは部室を出る前。つまり自己紹介が破綻してしまった後だ。そういえば、部長は俺が読書をしている間に好きだ、と言った。後から訊くと子猫のことだと答え……。

 自己紹介。猫。

 ……。

 要するに、そういうことか。

 ここに来たことは、計画でも企みでもなかった。ただ純然に、気持ちの向くままに訪れた。理由は、言わずもがな。そして計画も企みもなくそこにあったものは、偽らざる気持ち。

 あるいは思惑すらなかったのかもしれない。ただその気持ちがあるだけで、行動を起こし、あとから見れば結果としてそうなっていたように。

 部長は、この場所では、三日月満月という一人の女の子だった。だからだろう、俺が心ない発言をした時、手痛い仕打ちを受けてしまったのは。

 俺の発言は、純粋な女の子の気持ちを顧慮しない、それこそ子孫七代まで祟られても不思議ではない、無分別な振る舞いだったのだ。手痛いどころか、手酷い仕打ちを受けてしまっても、それはやむなし、よんどころない、と言ったところだろう。

 しくしくと痛む下顎の辺りをさすりながら、店員が抱いている子猫がじゃれつく姿をしばし眺めた。

 三日月さんは鞄につけたストラップを揺らし、また違う場所へ足を向ける。

 一目見ただけではわかりづらい、銀色の猫のストラップを揺らして。

 自己紹介って恥ずかしいですよね。

 歳を重ねてもそうかもしれませんが、青春時代までは特に、自己紹介というものに緊張や恥ずかしさを覚えるものではないかと思います。

 自分を語る、ということは、誰しも照れくささを感じるものなのかもしれませんね。

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