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「僕の寝室、で良ければお使いになって下さい。」
時計が九時を回って居たので僕は彼女にそう提案致しました。
彼女も何やら訳有り気だと憶測し、早目に横になった方が楽であると思ったからです。
−もっとも何を問うても会話が成立しないので、詳細は明日にしようと考察した末の事でもあります。−彼女が一刹那の後、飲み干した珈琲のカップを両手でテーブルに据えたのを見届けると、僕は立ち上がり、彼女を寝室まで案内致しました。彼女は素直に僕の後ろを着いて参りました。寝室へ入ると彼女はベッドへ腰を下ろしたので、電気を消す事を告げ寝室を後にしました。
さてリビングに戻った僕は此の曖昧模糊な状況を整理すべく考えを巡らせました。
まだ名前すら知らない彼女は一体何故あの場に居たのか、何故質問何にも口を割ろうとしないのか。
其れは実に非生産的な考察であります。しかし、気にし始めると留まる事を知らないのが僕の悪い癖でありまして。彼女の黒い瞳の奥に一体何が潜在するのか−散々あれや此れやで自問自答した後、夜も更けて来ましたので僕は眠ろうとキッチンにてグラスに水を注ぎ、ロヒプノール、セロクエル等眠剤の類を其の水で流し込みました。
全ては明日分かる事、そう自分に言い聞かせソファに身を委ねたのであります。次第に体は重たく感じる様になり、思考も霧が架かった様ボンヤリしてきたので、再び何か考える事の無い様、僕は頭一切を無にして只薬の力に依存するのです。