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「さて、どうしたものか。」

僕は通りを歩きながら次に行くべく場所を脳内で模索しました。春風駘蕩、時折の風を除けば。此処は決して田舎では無い街であるので、擦れ違う人は多く、また歩調の遅い僕を追い抜いて足速に去って行く人も居ます。

人混みに酔い易い僕は、しばらくすると眩暈を催し、全身の血の気が引くのが分かりました。

人通りの多い通りと云えど、一歩裏の通りに入れば格段に人は少なくなります。

僕はそちらへ歩行を変え、何処か休める場所が無いものか、周囲を見渡しました。

すると視力の比較的弱い僕にでも確認出来る場所に−通りの向側ではありますが−広場が見受けられました。

ゆっくり、確と大地を踏み締める様に神経を尖らせて広場へやっとの思いで辿り着くと、青いペンキを塗られた粗末なベンチに腰を据えました。

粗末で簡易的なベンチであっても今の僕には充分なのです。吐息が荒くなり、例の発作が始まる兆候を見せると同時にヒルナミン、ルボックスの錠剤を唾液で飲み込み、今朝も服用したリスパダール内用液を流し込みました。効能が現れる間に煙草に火を付け、大きく吸い込み、口を尖らせた状態で吐き出します。

人混みはどうにも好きになれず、しばしば発作を起こす事があるのです。まるで僕に対する罵意雑言を行き交う人々が囁いている様で。


「エロイ、エロイ、レマサバクタニ」…そんなフレーズが頭に浮かびました。神は人に命を与えるけれど、人類救済の為に世に遣わされたキリストは、最後に嘆くのです。

「神よ、神よ、何故お見捨てになられたのですか」−磔にされた際、彼は信仰を否認する人々の事を

「神よ、お許し下さい。彼等は自分が何をしているか知らないのです」−最期はキリスト本人も死を怖れたのでしょうか。僕は−死は怖くない。でも勇気が無いから能々と生き存えているだけで在って、死、と云うより『消滅』であるなら、僕は其れを望んでいます。


そう考えているうちに何時の間にか晴れ渡って居た筈の空からは小雨が降り、すっかり辺りも薄暗くなっていました。


僕はようやく落ち着いて来た発作をまだ心配しつつも重い腰を上げ、帰路に着く事にしました。


雨は次第に激しさを増し、春の冷たさを含んだ雨粒は容赦無く街を、僕を打ち付けます。雨具を携えて等いなかった僕は帰路を急ぎ、来た道を多少急ぎ足で辿りました。


随分と家に近付いた頃、電柱の影に何かを見付けました。

猫、にしては幾分大きく、其れにゴミにしてはあまりに人型をしているのですが、何分雨と、暗くなってきた所為で、遠目からは其れが何で在るのか判別が付きません。此処の通りは、普段なら付近に住まう人々が疎らですが、穏やかに行き交う道でありますが、雨の所為でしょうか、僕以外に人は見受けられません。


僕の歩みは、次第に其の猫で在るかゴミで在るか、に近付くます。そして其れが人間の女性で在る事に気付く迄、そう時間は掛かりませんでした。

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