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「−書けない。
リアルを追求する程、僕のココロは苦しくなる。」
僕の呼吸は荒くなり、肩で息をする様に震え始めました。
意識的ではなく、必然的に。
顔面はみるみる内に蒼白な色合いを呈し、両手の震えからカンバスを床に落としました。
足は、−身長からすると随分軽目ではあるが−僕の体重を支える事も儘ならなくなり、倒れ込む以外に方法は無かったのです。藻掻きながらも寝具まで辿り着くと、腕を伸ばしリスパダールの内用液を掴む。切り口を歯で噛み千切り、1mLの液体を口に含むと瞬時に広がる強烈な苦み。その様な苦みも、僕は日常的に耐性が付いているので何かで流し込む事も無く、其の儘横になりました。
響き渡る荒々しい呼吸の音に耳を傾けながら、手足、それに顔面に迄及ぶ痺れを必死に堪えます。朦朧と、弱々しく開いた瞳が捉えた窓には、相変わらずサックスブルーの中を泳ぐ天使達が、僕を嘲笑っているのです。
−いつの間に眠りに落ちていたのでしょう、ふと気付けば窓から一杯に射し込んでいた朝日は薄れ、ソラは高くなっていました。
まだ朦朧とする意識を覚醒させるべく僕は冷水一杯で顔を洗い、鏡を覗き込む。
真っ黒な髪、其れは少し長く、横に流さなければ前髪は目の際に届きそうです。
色白な肌と、はっきりとした二重はきっと母親譲りなのでしょう。上唇は薄く、下唇は比較的厚い。此れは−−−僕はタオルで顔を拭った後、出掛けるべく、着ていた部屋着を脱ぎ捨て、簡素ながらも小綺麗な服に着替えます。財布と、煙草、それに使い込んであるスケッチブックとデッサン用に芯を長く出された鉛筆を携えて。