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―今日は絶好の自殺日和―
窓に切り抜かれた四角のソラは、絵の具をその儘、カンバスに零した様な碧さを見せ付け、千切れ千切れに浮かぶ乳白色の雲、其れはグイド・レーニの絵から抜け出た天使達が悪戯に、此の世界の非情の何たるかを、声も高らかに歌っているかの様でした。
森羅万象を燃やし続ける太陽が放つ熱を帯びた光が十二分に、決して大きくもない窓から室内へと差し込んで、其れの輪郭を浮き彫りにしています。
未だ寝具の上で夢枕に就く彼にも−例外は無く。
彼は光から逃げようと、幾度か頭の位置を変えたり、寝返りを打ったりして、少しでも長く眠りに居ようと試みはしたものの、結局其れは無駄骨に終わり、諦めを悟った男は情けない声を出しながら其の半身を起こします。
寝惚気眼に眩しさが浸み入って、僕は念入りに両目を擦ると、丁度ベッドの横、枕元の隣に意図して置かれたテーブルの上のグラスを−目を細めた儘−手に取った。
グラスには半分程の水が入っておりまして、僕はゆっくりと縁に口を付けるや否や、一気に其れを飲み干しました。神経質に見える程丁寧に、グラスを元の位置に収めると、一刹那の沈黙の後、小さく溜息を吐きます。気怠く再び手を延ばし、煙草の箱を取り上げ、ライターで火を点けると、オイルと煙草の煙の香りが次第に辺りに広がっていき、煙を口から吐き出すと、今回は刹那的で無く−沈黙は続いた。
煙草の葉が燃えるジリジリとした音、不規則的な周期で煙を吐き出す音…不意にテーブルの上に散らばったPTP包装が乾いた音を立てた。何種かの薬。アルミから押し出され、空になっているものは、彼が昨晩寝具に身を預ける前に服用したものなのでしょう。
煙草を灰皿に乱雑に押し付け、彼は何かを思い立ち腰を上げました。
部屋の隅には幾つかのカンバスが立て掛けられており、その一つを彼は手に取る。其処には女性の姿がデッサンの状態で描かれておりました。いや、描こうとされていました。
「女性」と云うのも大方の予想で、大部分の線が消されていたり、表情が無かったりした儘カンバス上で時を止めているのです。