新幹線
今まで、東京から大阪を何往復しただろう。今回の客はとんでもない奴だった。何度もよろしいですかと念押ししたのに、返品だと!定年前なのに、何で俺がクレーム対応に大阪まで行かないと、だめなんだ。疲れはてて精も根もくたくただ。いつもの癖で首を3回右左に振った。新幹線はやっと横浜駅に滑るように入った。最終前の東京行きは、降りる人もまばらでスーツ姿のサラリーマンが多かった。ふと、向こうのホームの大阪行きの新幹線の窓に目が行った。若い男がいた、紺のスーツにブルーのネクタイ、目がキラキラしているのが遠くからも良くわかった。初めて任された仕事、初めての出張。遠ざかる新幹線の窓に、若い男が首を3回振る仕草がハッキリと見えた。「もう少し頑張るか 」俺はネクタイを締め直した。