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異世界に跳ばされた  作者: リィナ
1/12

1 アカガネ色は綺麗です

 ニホン国の硬貨の話をしようか。


 アルミの一円玉は軽すぎるし、消費税のせいで財布に溢れかえるようになった。

…目の悪いあたしは、よく百円玉と間違えて恥をかくのだよ。

穴あき硬貨の五円玉や五十円玉は、個人的に好みじゃない。

五百円硬貨は、穴あきじゃないから好きだがな!

百円玉も悪くは無い。

桜の花のデザインは美しいのだが、色が好みじゃないのだ。


 で、最後に十円玉だ。


前述した硬貨に比較したら、十円玉は美しい。

かわいくリボンで結わえたトキワギで囲んだ、10のアラビア数字。

精密な宇治平等院鳳凰堂の、美しい浮き彫り。

表も裏も、あたし的に最も美しいデザインだと思う。


世間様では、ギザジュウなる古い十円玉が珍重されてるが。

あたしはアカガネの輝きを宿す、新品の十円玉が一押しである。

日本国の代表銅貨十円玉は銅とスズの合金だが、比率からいってほとんど純銅といってよい。

それが証拠に水溜りへ十円硬貨を入れておくと、銅イオンの殺虫効果でボウフラが発生しないのだ。


ビバ、十円玉。

十円玉に栄光あれ、なのだ。



 ※



「おや、珍しい銅貨だね、初めて見たよ。何処の国の銅貨だい?」


「えーと、ニホン国の銅貨です」


「聞いたことがないねえ、よほど遠い国からきたんだね、あんた」


「ソーデスネ」


「なに、何処の国の銅貨だろうと、銅貨は銅貨さ。それも混ぜもんの少ない上等の銅貨だしね。支払いに問題はないよ」


「ソーデスカ」


「じゃ、『地鶏の串焼き』5本で銅貨3枚だ。珍しい銅貨だから、一本、おまけだよ」


「アリガトーゴザイマス」


 ずしリと重い布袋から、10円玉を3枚取り出し出店の女将に手渡した。

代わりに受け取ったのは、大きな木の葉に包まれた『地鶏の串焼き』5本とおまけの1本。

岩塩を振りかけて焼いた、焼き鳥のような何かではあるけども。

あつあつでほかほかと湯気がたち、肉の表面から肉汁がしたたり落ちている。

焼いた鶏肉そっくりの匂いが、あたしの食欲を刺激する。

うまい…いや、うまいに違いない。

人目につかなさそうな路地裏にいき、あたしは両腕でガッツポーズをとっていた。


「ありがとう、10円玉!ワンダホー、日本国独立行政法人の大阪造幣局!!」


すばらしい貨幣鋳造技術のおかげで、食事にありつけたよ。

銅はどの世界でもやはり銅なんだね。

いい仕事をしてくれた10円玉は、まだまだあるんだよ。

銀行へ小額硬貨を入金しに行く途中だったからね。

1円5円10円合わせて、3万円分ぐらいあるからね。

10円玉が一番多いんだよね。

だからずしりと重いんだ。

この布袋を振り回して相手にヒットさせたら、昏倒させること間違いなし。

武器としても使えるって、すごくない?


「いただきます」


硬貨の入った布袋を抱え込み、体育座りで壁に寄りかかる。

木の葉の包みから串焼きを取り出し、思いっきりかじりついた。

岩塩特有のほのかな甘みと苦味としょっぱさが、あたしの味覚を支配する。

そして、ぶりぶりした肉の食感と。じわりと広がる肉汁の旨み。


「う・ま・い・ぞ~」


さすがに目から光線だしたりはしないけど、気分はそんな感じ。

異世界初の食事は、空腹感もあってかこの世で最高の旨さと満足感を味わった。

冷たいビールがあったなら、さらに良かったんだけどね!

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