1 アカガネ色は綺麗です
ニホン国の硬貨の話をしようか。
アルミの一円玉は軽すぎるし、消費税のせいで財布に溢れかえるようになった。
…目の悪いあたしは、よく百円玉と間違えて恥をかくのだよ。
穴あき硬貨の五円玉や五十円玉は、個人的に好みじゃない。
五百円硬貨は、穴あきじゃないから好きだがな!
百円玉も悪くは無い。
桜の花のデザインは美しいのだが、色が好みじゃないのだ。
で、最後に十円玉だ。
前述した硬貨に比較したら、十円玉は美しい。
かわいくリボンで結わえたトキワギで囲んだ、10のアラビア数字。
精密な宇治平等院鳳凰堂の、美しい浮き彫り。
表も裏も、あたし的に最も美しいデザインだと思う。
世間様では、ギザジュウなる古い十円玉が珍重されてるが。
あたしはアカガネの輝きを宿す、新品の十円玉が一押しである。
日本国の代表銅貨十円玉は銅とスズの合金だが、比率からいってほとんど純銅といってよい。
それが証拠に水溜りへ十円硬貨を入れておくと、銅イオンの殺虫効果でボウフラが発生しないのだ。
ビバ、十円玉。
十円玉に栄光あれ、なのだ。
※
「おや、珍しい銅貨だね、初めて見たよ。何処の国の銅貨だい?」
「えーと、ニホン国の銅貨です」
「聞いたことがないねえ、よほど遠い国からきたんだね、あんた」
「ソーデスネ」
「なに、何処の国の銅貨だろうと、銅貨は銅貨さ。それも混ぜもんの少ない上等の銅貨だしね。支払いに問題はないよ」
「ソーデスカ」
「じゃ、『地鶏の串焼き』5本で銅貨3枚だ。珍しい銅貨だから、一本、おまけだよ」
「アリガトーゴザイマス」
ずしリと重い布袋から、10円玉を3枚取り出し出店の女将に手渡した。
代わりに受け取ったのは、大きな木の葉に包まれた『地鶏の串焼き』5本とおまけの1本。
岩塩を振りかけて焼いた、焼き鳥のような何かではあるけども。
あつあつでほかほかと湯気がたち、肉の表面から肉汁がしたたり落ちている。
焼いた鶏肉そっくりの匂いが、あたしの食欲を刺激する。
うまい…いや、うまいに違いない。
人目につかなさそうな路地裏にいき、あたしは両腕でガッツポーズをとっていた。
「ありがとう、10円玉!ワンダホー、日本国独立行政法人の大阪造幣局!!」
すばらしい貨幣鋳造技術のおかげで、食事にありつけたよ。
銅はどの世界でもやはり銅なんだね。
いい仕事をしてくれた10円玉は、まだまだあるんだよ。
銀行へ小額硬貨を入金しに行く途中だったからね。
1円5円10円合わせて、3万円分ぐらいあるからね。
10円玉が一番多いんだよね。
だからずしりと重いんだ。
この布袋を振り回して相手にヒットさせたら、昏倒させること間違いなし。
武器としても使えるって、すごくない?
「いただきます」
硬貨の入った布袋を抱え込み、体育座りで壁に寄りかかる。
木の葉の包みから串焼きを取り出し、思いっきりかじりついた。
岩塩特有のほのかな甘みと苦味としょっぱさが、あたしの味覚を支配する。
そして、ぶりぶりした肉の食感と。じわりと広がる肉汁の旨み。
「う・ま・い・ぞ~」
さすがに目から光線だしたりはしないけど、気分はそんな感じ。
異世界初の食事は、空腹感もあってかこの世で最高の旨さと満足感を味わった。
冷たいビールがあったなら、さらに良かったんだけどね!