01 橘綾乃
8月9日
私の家は、少し前まではボロアパートの筈だった。今は大きな、とても大きい豪邸。
黒いパーカーが喋りかけてくる。
「いやー凄いお家ですねぇ。しかもプールでゆうゆうと泳げるんですか。凄い凄い。」
召使が持ってきたリンゴを取り上げ勝手に食べやがる。
「あんた、本当に何なの?死神っていうから、周りに見えないとか大きな爪が生えてるとか、無いの?普通の阿保じゃない。」
「普通の阿保って何ですか。」
「それより、なんか無いの?家事は家政婦がやってくれるし、趣味とかないし・・・」
死神はキョトンとした顔をすると、ポケットに手をいれ、何かを取り出した。
「すっごいゼータクか願いですね。これはどうです?飲むと、人生で一番楽しかった時の夢を見れます。定価300円です。」
小さな小瓶に入った、白い薬。そんな訳のわからない物のみたくないし、それに。
「人生一番楽しい時の事なんて今じゃない。夢か現の違いしかないじゃない。」
そういうと、死神は笑って言った。
「じゃ、タダであげます。」
いや、値段の問題じゃない。
「私には見えるんですよ、肌寒い風、コンクリートの地面、一人佇む綾乃さん。」
わけの分からない事を話し始める。
「何それ、予知夢ってやつ?」
「そんなもんです。だから、宝クジが当たる事も、企業が成功する事もわかったんです。一人佇む綾乃さん、その後は・・・、砂漠、何処までも続く砂漠。」
「頭大丈夫?てか、ならどうしてアンタは自分のために使わないの?」
また、死神は笑う。心底おかしそうに。
「それで?貴方の様に社長にでもなりますか?私は、この辺をフラフラ彷徨って、願いを叶えてお金もらって、飯を食って散歩して、寝れる生活ができますから。」




