01 橘綾乃
あるところに、幸せになりたいと願った人がいました。
願いは、聞き届けられませんでした。
8月6日
「......の、わずか3年で大手企業まで成長させ、社長にまでなった奇跡のストーリーをお聞きしたくて・・・、」
この瞬間が好きだ。
ああ、自分が社長なのだ、と実感できる。やっと幸せになれたのだ。
「その日、何となく宝クジを買ってみたんです。そしたら、500万円当たって・・・、遊びのつもりで、企業を始めてみたら、あっという間の3年間でした。」
いや、違う。あってはいるが。
私はあの日、死神に出会った。
マンションの屋上。吹き付ける風。
私は、彼女に出会った。
「死にたいんですか?」
黒いパーカーを着た中学生位の少女だと思った。
「こんな世界、生きてたってしょうがないじゃない。」
「にゃるほど。」
にたにたと笑う彼女は、悪魔のようだった。
「死にたいんなら死ねばいいですが、死ぬ前位、幸せになりたいとか思いません?」
私に幸せなんて縁はない。そう思っていた頃の事だった。
「お金さえ払ってくれれば、どんな願いだって叶えてみせますよ。」
金?
「地獄の沙汰も金次第、内容によって異なりますが。お名前は、橘・・・、綾乃さんですね。」
「誰だコイツ。」
「死神です。死にたそうな人に上から目線の同情をして、金を絞り取る、あ、いえ願いを叶えようという企画です。」
「なら、お金持ちにしてよ。願いを叶えるにもお金がいるんでしょ?どこかの社長とかでもいいから。」
「・・・え、そんな事?なら500円・・・」
桁を4つ位間違えていないだろうか。
そして、私は望み通り、社長になり、幸せになった。




