やって来た1年前のその瞬間
約一年前のその日、宮島やよい5号は何者かに拉致された。
宮島やよい5号の運命を知った俺はその日の出来事を探った。
この学校にある防犯システムを佳織にハッキングさせ、録画されていた防犯カメラの映像を確認した。
迎えの車たちもほとんどいなくなり、空の青さに傾き始めた陽が赤みを混じらせ始めた頃、校門を一人で出て行く宮島やよい5号。
学園の壁に沿って設けられている歩道の上を一人、とぼとぼと歩いていく宮島やよい5号。
やがて、そこにやって来たワンボックスカー。
降りてきた男と宮島やよい5号が何か話をしている。
短い会話の後、そこに乗り込む宮島やよい5号。
それが彼女の最後の姿だった。
俺と佳織は一年前のその場所近くに潜んでいる。
道路を挟んだ公園の茂みの中。
時折、空を見上げると、あの時の光景に空の色が近づいてきている。
宮島やよい5号は今も、校舎の正門のところで、お迎えの車を待っているはずだ。
他のクローン少女たちの迎えはとっくの前に来たと言うのに、自分の迎えだけが来ない。
一年前の今日の宮島やよい5号はどれほど心細かった事か。
俺が彼女の立場だったら、泣かずにはいられない気がする。
今は俺たちが付いていると言ってはいても、やはり心の奥底では心細さが沸き起こっているはずだ。
俺はこんな時間を早く終わらせてやりたい。
やがて、校門から一人の少女が出てきた。
ここからは離れていて、その容姿を確認する事はできないが、黄色いカチューシャは見て取れる。宮島やよい5号だ。
宮島やよい5号が出てきて、学園を取り巻く歩道を歩き始めた。
彼女の家はとてもじゃないが、歩いて帰れるような場所にはない。
歩いていけば、曜日が変わる頃になるだろう。
ゆっくり、ゆっくり、何かすがるものを探すかのように、不安げな表情で、きょろきょろしながら、こっちに向かってきている。
本当に俺たちがいるのだろうか、そう思っているのかも知れない。
声をかけてやりたいが、じっとこらえる。
少しずつ、宮島やよい5号が俺たちの前に近づいてきている。
空の彼方から聞こえるカラスの鳴き声に混じって、エンジン音が聞こえ始めた。
来た!
俺は公園の木の陰から、道路の先に目をやった。
一年前の防犯カメラの映像と同じ、黒色のワンボックスカーだ。
俺の横から佳織が顔をぐいっと出して、道路をのぞき見ようとしてきた。
「まだ、隠れていないと」
俺がそう言って、佳織の背中の服を引っ張った。
「分かってるわよ。そんな事くらい」
そう言って、口を尖らせて、横を向いた。
分かっているのなら、こっそりとのぞけよ。
「宮島やよいさん。正確には5号さんだよね?」
野太い男の声が聞こえてきた。
俺は公園の茂みを越えて、車道に出た。
俺に続いて、佳織も出てきた。
ほっぺが膨らんでいるところを見ると、まだ怒っているらしい。
俺たちから少しだけ離れた場所に停車していたワンボックスカーの助手席から降りた男が、宮島やよい5号に話しかけていて、運転席からもドアを開けて、男が降りようとしていた。
二人ともスーツを着た、一見紳士風だ。
俺たちが車道から出てきた事に、宮島やよい5号は気づいた。
さっきまでの不安げな表情が消え去り、言葉もしっかりとした口調で話した。
「はい?何の事ですか?」
男たちも俺たちが現れた事に気づき、戸惑った表情でお互いを見合わせた後、頷きあって、話を続けた。
「君を迎えに来たんだよ。さ、乗って」
助手席から降りてきた男が右手で、宮島やよい5号の腕をつかみ、左手で後部座席のスライドドアを開いた。
「私、上杉里保って言うんですけど」
宮島やよい5号はきっぱりした口調で、5号である事を否定して、そう言った。




