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さようなら、人生リセットスイッチ

 次の日の朝。


 穏やかな日差しが差し込む中、俺は一心不乱にあの人生リセットスイッチを緩衝材のぷちぷちでくるんでいる。


 横には段ボールが2つ。

 すでに一つ目の段ボールには、ぷちぷちにくるまれたあの装置が収められていて、後は封を閉じるだけである。


 「ねぇ、ねぇ。これ、ぷちぷちしていい?」


 無邪気な結希が俺のところにやって来て、笑顔でたずねた。


 「ああ。もちろん」


 そうにこりと返してやると、思いっきり嬉しそうな顔をして、ぷちぷちを潰しはじめた。


 「それ。何なんですか?」


 里保がのぞきこむようにして、たずねてきた。


 「爆弾! だって、手が震えてるでしょ」


 佳織の声だ。

 そうだ。確かに俺の手は震えている。

 これではこの段ボール用の送り状に字が書けないかも知れない。


 「佳織。そこにある黒熊ヤマトの宅急便の送り状に、宛先を書いてくれ。

 一人は有栖川夏帆。もう一人は大久保真二だ」

 「それ、送っちゃうんだ。あの二人に」

 

 これは俺にとっては毒みたいなものだ。

 昨日、俺はこの国が誇り、山城財閥が造り上げた超スーパーコンピューターありすに半壊のダメージを与えたばかりか、その実態をまたネットに流した。


 救出したクローン少女たちを公の場に出して、前回のようにもみ消しできない状態にした。

 これで、クローン少女たちは人道的に扱われる事になるだろう。そして、東海化学とは別にもう一社存在していたクローン製造会社を暴露した事で、この国は今ひっくり返るほどの大騒動となっている。


 そんな事を引き起こした張本人である俺は、自分がしてしまった事にある程度の後悔と、将来への不安にさいなまれている。

 それを抑え込んでいるのは相変わらず、俺のプライドであって、その支えは人間として、これが正しい行いだと言う考えだけだ。


 昨晩、俺はほとんど一晩眠れないまま過ごしてしまった。つまり、俺の心はまだ迷いに迷っている証拠だ。

 俺にはこの事件を全て無かった事にできる道具がある。

 これが、そもそもの元凶である。

 これが無くなれば、迷っても仕方ない。俺の心も決心がつくと言うものだ。

 さようなら、リセットスイッチ。

 

 「あ。佳織。中に入れる手紙も書いておいてくれ。この装置が何なのかを書いた手紙だ。

 それと、大久保には、そう簡単に未来は変わらないものかもと付け足しておいてくれ」


 そう言い終えた時には、二台目の装置もぷちぷちにくるみ終えていた。


 「ふぅー」


 大きく息を吹き出すと、その装置を段ボールの中に入れた。


 「爆弾二つ、セット終わり」


 そう言うと俺は立ち上がった。本当に何なんだろうと言う感じで、里保が覗き込んでいる。

 時計に目をやると、もうすぐ9時になろうとしていた。


 「さてと、佳織。後は頼むわ。手紙を入れたら、段ボールに封をして、出しておいてくれ」


 俺の言葉に佳織が頷いた。

 俺は玄関に向かった。


 「どこか行くの?」


 ぷちぷちで遊んでいた結希が手を休めて、俺を見て言った。


 「ああ。ちょっとな。もう迎えの車が来るはずだ」


 今から俺が向かうのは山城のお父様のところ。昨日の事件の張本人が俺だと言うのはすぐにばれた。そりゃそうだ。あの研究所で使ったのは、正真正銘俺のICカードだったんだから。


 玄関の扉を開けると、通りの車道に黒塗りの高級車が停車しているのが見えた。

 行きたくない気分と、さっさと終らせてすっきりしたい気分が入り混じったぐたぐたな気分のまま、階段を下りて行った。


 その車は俺を乗せると、一路この国の首都にそびえ立つ、超高層ビルを目指して発車した。

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