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ありすから解放されたクローン少女たち

 きっと、そのドアまでの距離はすごく短かったはずだ。


 だが、俺にはとても長い距離に感じられた。

 きっと、心の奥底にまだ戸惑いがあって、それを俺のプライドが、抑え込もうと葛藤していたからだろう。

 そのためか、俺の足は遅かったようだ。気付くと、有栖川が何mも前で立ち止まって、俺を見ていた。


 「伸君って、有栖川さんより歩くの遅いんだぁ」


 背後で佳織が意地悪そうに言った。振り返ると、佳織はふふふんと言う感じで、斜め上に顔を向けていた。


 「俺だって、迷うんだよ」


 そう言い放つと、歩くペースを速めた。

 有栖川の前にあるドアの横には、セキュリティのためのICカードリーダーがあった。

 俺が自分のICカードをかざすと、短い電子音と共に、ドアの電気錠が開いた。


 有栖川がそのドアの取っ手に手をかけて、ドアをスライドさせた。

 ごろごろと転がる感じの音がしている。ちょっと重そうなドアのようだ。

 有栖川がドアの横に照明のスイッチを見つけ、スイッチを入れると、白く明るい光で満たされた。そこは10畳ほどの空間で、誰もいなかった。


 壁に沿って設けられた横長の机の上にはキーボードが置かれ、その前にはいくつものモニターが設置されている。有栖川が机の前の椅子に座り、目の前にあった電源を入れた。


 起動した大半のモニターに映し出されたのはありす本体の映像だ。どうやら、監視カメラの映像らしい。

 唯一、有栖川の目の前のモニターは映像用ではないようで、プロンプト表示から始まり、文字が一気に流れ始めた。

 そのスクロールする速度が速すぎて、何が表示されているのか分からなかったが、やがてスクロールが停止した。


 「ID:」


 IDを入れろと言っているらしい。何のIDを入れればいいんだ? そう思っていると、有栖川が俺を見て、左手を差し出してきた。

 その掌の上に何かを置けと言っているようだ。

 ここでICカードなのか。そう理解して、俺のカードを有栖川に手渡した。

 有栖川はそれを受け取ると、キーボードの横にあった細いスロットにICカードを差し込んだ。


 「Password:」


 有栖川が俺にちらりと視線を向けてから、キーボードの前から少し横にずれた。俺はキーボードの前に立って、俺のパスワードを打ちこんだ。


 「OK」


 と表示されたかと思うと、画面上には何かのウインドウが開いた。有栖川がモニターに目をやりながら、操作を始めた。


 「無菌状態の培養液の中に閉じ込められたクローンだって、時には不調になるのよ。

 そんなクローンを取り換えるには、そのクローンをありすから取り出さなければならない。

 だから、ありす本体にダメージを与えずに、クローンだけを取り出したり追加したりする機能が装備されているの。

 その操作を正しく行えば、ありすからクローンだけを取り出すことができるのよ」


 有栖川がそう言い終えた時、1台のモニターに映し出されているありすの金属の筐体が開き、中から真っ裸の有栖川のクローンが現れ、床に崩れ落ちた。


 「おい。大丈夫なのか?」


 俺はそのモニターを指さして、叫んだ。


 「大丈夫よ。統合されていたありすから切り離されて、今は意識がないだけ」


 そう言いながらも、有栖川は次々にありすから、有栖川のクローンを離脱させていった。


 「終わったわ」


 俺は慌てて外の部屋に飛び出した。俺が飛び出した目の前に区画の中央にも、クローンが倒れていた。

 俺の位置から5mくらいか。俺は走り寄って、抱え起こした。

 小柄な体にそれほど大きくない胸。素っ裸の有栖川を見ているようで、目のやり場に困る。


 「大丈夫か? しっかりしろ」


 俺はゆすりながら言った。


 「あー。裸の有栖川さんを抱きしめようとしている」


 佳織が見下ろしながら言った。


 「だ、だ、誰がだよ」


 そうは言ってみたものの、俺だって、男だ。いやらしい気持ちがむくむくと込み上げてこない訳がない。


 「代われ」


 佳織にそう言って、俺はその場から少し離れた。意識のないクローンを何体も運び出す訳にはいかない。

 何が何でも、意識を取り戻してもらわなければならない。


 「大丈夫よ。数分もすれば、目覚めるはず」


 有栖川は冷静にそう言った。そして、その言葉のとおり、クローン少女たちは目覚めた。

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