有栖川もクローン?
ありすのホログラフが俺たちに視線を向けた。
「あなたたち、また来られたのですか?
しかも、この地下室に」
「ありす。この子は誰だ?」
ありすの言葉を遮るように、俺はそう言って、有栖川の変装を解いた。
ホログラフの少しぼやけた感じのあるありすの顔だったが、それでも驚きが浮かんだのが分かった。
「あなたは私の」
「ありす。君の中にはこの子のクローンが何体も組み込まれていると聞いているが、本当なのか?」
ここを警備している者たちに邪魔されたくはない。
そのためには、さっさと終らせる必要がある。
そう思っていた俺はありすの言葉を遮って、一番聞きたかった事をたずねた。
ありすの視線がゆっくりと動き、俺にあった。
「そうよ」
ホログラフのありすは頷きながら、そう言った。
有栖川の言ったとおりだ。
もっとも、有栖川が嘘をつく理由などはなく、単なる勘違い的なものの可能性をほんの少しだけ疑っていたわけだが。
「このありすの区画の2つ毎に、一体のクローンがいるわ」
ありすは言葉を続けた。
この部屋に設置されているありす本体は、いくつもの区画に分かれているのが見て分かるが、その数は数えなければ分からない。
その区画2つ毎に一体のクローン。その総数は何体なんだ?
ともかくだ。その全てのクローンを助け出す。それが有栖川の願いだ。
「彼女は自分のクローンたちを救いたい。そう言って、ここに来たんだ」
その言葉にありすが首を傾げて見せた。そして、ああと言う感じで頷いたかと思うと、信じられない言葉を語り始めた。
「その子は何か誤解をしていると言うか、真実を知らないのね。記憶の書き込み時期がきっと、私がそう思っていた時だったんだわ」
記憶の書き込み? まるでクローンに記憶を与える時の話のようじゃないか。
俺の思考がありすの真意を理解できず、さまよっている事など、お構いなしにありすは語り続けていた。
「有栖川夏帆のオリジナルは私よ。このありすの中のクローン全ての頂点に立ち、デジタル部を制御下に置き、あなたたち人間とのインターフェイスを行っている私こそが、本当の有栖川夏帆。
その子は私の記憶が植え付けられた私のクローンよ」
まじかよ。俺は驚いて、有栖川に目を向けた。
衝撃的な話に有栖川の目は大きく見開いて、頬は強張っている。
俺が視線を向けた事に気付いた有栖川は叫ぶように言った。
「嘘よ。嘘。私がクローンだなんて。あなたがクローンなのよ。
どうして、そんなひどい事を私に言うのよ。私はあなたたちを助けてあげようとしているって言うのに」
いつもの有栖川からは想像できない狼狽ぶりだ。
それだけ、衝撃が大きいのだろう。
どうしたものか。
そう思いながらも、どうすればいいのか見いだせない俺の横で、佳織がまじめな顔つきで、有栖川を抱きしめた。
「大丈夫よ。落ち着いて」
いつものにへらとした不気味な笑顔ではなく、佳織のこんな真面目な顔つきは久しぶりに見た気がした。




