未来は変えられるのか?
未来は変えられるものなのか?
すでに1年の時を遡り、未来を変えた俺としては、その答えを知っている。
だが、小早川の口ぶりはまるで未来は変えられないかのようじゃないか。
「それはどう言う意味でしょうか?
もう少し具体的にお教えいだたけませんでしょうか?」
「何度か試しておりますが、行動を変えても結果が変わらないと言う報告が届いております」
その言葉に、俺は思わず拳を握りしめた。
暑いと言う訳でもないのに、汗が滲んできているのを感じた。
かすかに沸き起こってくる不安を俺は首を振って、振り払った、
俺は1年の時を遡り、宮島やよい 5号を救った。
つまり、未来を変えた経験者だ。
そう。未来は変えられるんだ。
生き証人として発言したい気分だ。
「まず。それは元々の依頼とは異なる内容ですね?
それは未来を変えられるのか? と言う新たなテーマとなります。そう言う、ご依頼ですか?」
「あ、いや。そう言う事では」
ちらりと俺に視線を向けてから、小早川がそう答えた。
俺の元々の依頼は未来は変えられると言う前提であり、過去に戻る事だけを依頼した。
なので、今の小早川の答えは正しいとも言えるが、俺の前提自身が揺らいでいるとも言える。
しかし、ありすに研究テーマを依頼すると、とんでもない費用が発生する。そのため、小早川は俺にちらりと視線を向けたんだろう。
「分かりました。では、その事は置いておくことにします。
ただ、私が考えますに、もしそのような事象が報告されているとすれば、こう言うことかと推察されます。
ある山に降り注いだ雨が一本の川の流れとなって、海に注ぐとしましょう。
この雨が海に注ぐのを防ごうと、川をせき止めたとします。その結果は、時間的に遅れは伴うもののいずれは堰を打ち破って、海に注ぐことになる。あるいは、堰を迂回するルートを経て、海に注ぐことになる。
と言う事なのではないでしょうか」
俺は頭の中でありすの言った言葉を反芻してみた。
つまりだ、予定されている結末に向かって、運命は進むしかない。
結末までの時間や途中で起きるイベントが変わったとしても。と、ありすは言っている。
なら、俺は最終的には宮島やよい 5号、つまり里保を救えない事になってしまう。
先ほど俺の心の中に芽生えた不安。
ありすは、その不安が現実になる可能性があると言っている事になる。
俺はもう里保を救えたと信じたい。
「いや、しかし。それなら、雨が止むまで決壊も迂回もさせない巨大な堰を造ればいいじゃないか!
雨はいつか止むに決まっている。
未来は変えられるはずだ」
思わず俺は叫んでしまった。
ありすも小早川もそんな俺を驚いたような顔つきで見た。
「どうされたのですか?
私は小早川さんの話に仮説を立てたまでです」
「私も、そう言う事象が何件か報告されたと言っただけですよ」
ありすと小早川が俺に諭すように言った。
「あ、あ、ちょっと興奮したみたいで、すみません」
俺はそう言って、頭を下げた。だが、俺の頭の中は里保の事の検証に動き出していた。
あの日、元々の世界ではなかった田島にそそのかされたワルたちの襲撃。
あそこで、俺が怪我でもしていたら、結局、里保は救えなかったかも知れない。
それに里保をさらいに来た男たち。
すみれ子があの場に来なかったら、すんなりとはいかなかっただろう。
ありすが言っている事は正しいのか?
俺が干渉した事で、運命のイベントが変わった。
だが、変わったイベントを抑え込めるだけの力がこちらにあった。
そう言うことなのか?
「結果が変わらなかったとしても、人間全てが何かの台本どおりに動いている訳ではないようです。
としますと、結末が予定されているものと、予定されていないものがある。そう言う仮定もあると思います。
としますと、その両者の違いはどこから生じるのでしょうかね?」
小早川がそう言ったのが、俺の耳に届いた。
そうだ。
全てが変わらないと言う事ではないはずだ。
「そうですね。この事象は非常に興味がありますので、場合によっては研究をご一緒させていだたきたいと思うようになってきました。
その結論が宗教的な面に踏み込むことになってしまったとしても」
ありすがそう言い終えた時、部屋の扉が開いた。
ありすにもどこから音がしたのかと言う事が分かるらしい。
ありすがドアの方に顔を向けた。当然、俺も顔をそこに向けた。




