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ばれなかった有栖川の変装

 「何か、私に隠していない?」


 有栖川は疑りの表情で、俺をじっと見つめてたずねてきた。どうやら、簡単に俺を解放してくれそうにない。

 疑問は完全に納得するまで、調べ上げる。学問や科学技術に対する有栖川の姿勢はこんなところにも表れているようだ。


 「えーっと」


 そう言って、俺はスマホを取り出し、時間を確認するふりをしてみた。

 その時、俺たち前に一台のタクシーが停車した。後部座席に見える姿は小早川だ。

 助かった。正直な本音だ。


 「来た。小早川さんだ」


 俺はそう言って、小早川を乗せたタクシーに向かって行った。

 スーツ姿に革の黒い鞄を持った小早川がタクシーから降りてきた。


 「小早川さん。待っていましたよ」

 「すみません。お待たせして。

 では、行きましょうか」


 有栖川との会話はもう終わった。

 そんなオーラを出して、小早川と並んで歩く。

 視線も有栖川や佳織が立っている方向には向けず、ただこの研究所の正門だけに視線を向けて。


 そんな俺の素振りに、佳織が駆け寄ってきた。

 有栖川も続いて、この研究所の正門を目指す。

 小早川が有栖川に視線を向けた。

 今日の第一関門が、有栖川に対する小早川の反応だ。


 「あの子ですか? 今日一緒に見学する子って?」


 小早川が俺にたずねた。

 その顔にはただ単に子供? と言う疑問だけが浮かんでいる感じだ。

 小早川は少女が有栖川だと言う事に気付いていない。そう感じた。


 ありすが使うホログラフの少女。

 それは有栖川自身の姿である。

 ありすを使ったことのある小早川なら、有栖川の容姿を知っているはずだが、この少女が有栖川だとは全く思っていないらしい。

 少女の正体が有栖川だと知られると色々面倒な事が予想されただけに、とりあえず俺は胸をなでおろした。


 正面の大きな自動ドアに近づくと、俺たちを迎え入れるように、左右にすっと開いた。

 自動ドアの向こうにはもう一枚ドアがあった。そこに進んで行くと、入ってきた背後のドアが閉じられ、目の前のドアが開いた。

 やっと、その先にこの研究所のホールが開けていた。


 壁一面大理石らしく、正面に受付のカウンターがあった。

 俺たちがやって来た事に気付いた受付の女性たちが立ち上がり、俺たちに一度会釈してから、微笑んだ。


 「今熊野研究所の小早川です」


 そう言って、受付の手続きを始めた。俺たちはその背後で手付きが終わるのを待っている。


 「ねぇ。ゲストで入るってわけ?」


 佳織が俺の右腕の服のすそを引っ張りながら、たずねてきた。


 「どう言う意味なんだ?」


 こんな場所、ゲストで入る以外何があると言うんだ? 少し怪訝な顔つきで聞いてみた。


 「ふーん。そんな聞き方するなら、教えてあげない」


 そう言って、口を尖らせて、横を向いてしまった。全く困った奴である。

 しかし、そんな反応をされても、俺の心の奥底は佳織に好意を抱いてしまっている。


 「さあ、行こうか」


 小早川がそう言った時も、佳織は横を向いていた。


 「何か、怒らせたの?」


 俺にゲスト用のICカードが入ったネックプレートを手渡しながら、たずねてきた。


 「まぁ、いつもの事なんですけどね」


 受け取ったICカードには大きく「GUEST」と書かれている。それを首にかけた。

 小早川は二人にもそのネックプレートを手渡すと、エレベーターに向かって行った。

 俺たちが乗り込むと、小早川は8階のボタンを押した。


 「地下じゃないんですか?」


 佳織が言った地下3階と言う言葉が頭に残っていた俺は、不審げな声で言った。


 「島原君はありすが地下にあるのを知ってるんですね」


 ちょっと、驚いた顔つきだ。かなり秘密の事項なのかもしれない。


 「あ。いえ。はは」


 思わず、苦笑いで誤魔化すしない。


 「ありすとのインターフェイスは8階にあるんですよ。もちろん、地下にもあるんですけど、そこを使うには特別な許可が必要です」

 「そうなんですか」


 そんな会話をしている内に、エレベーターは8階に到着していた。

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