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撃退!

 俺が右手に持っていた鞄を左手に持ち変え、近づいて行く。

 十字に道が交わる少し開けた空間に出た。


 怪しげな男がにやりとしながら、俺に近づいてきた。

 俺が警戒して引き返すのを避けようとしているのか、視線は横に向けていて、俺への害意は見せていない。


 そんな時、俺は肩をつんつんされた。

 佳織に目を向けると、右手の人差し指を差し出して、左右に二、三度振った。

 俺が左右に視線を向けると、左右につながっている道にも怪しげな男がいた。

 全員で三人か。


 俺は右手で佳織の左腕を掴むと、まっすぐ進むのをやめて、左横に寄った。

 どう考えても害意が無いとは思えないが、過剰反応もまずい。

 俺が進路を変えた事で、こいつらがどう動くか。

 それで、こいつらが俺たちに害意を持っているかどうかが分かる。


 左右からこの空間に足を踏み入れた男たちが俺がいる方向に向きを変えた。

 一直線にその針路を結べば、俺に到達する。

 前から来ていた男も針路を男の右、つまり俺の方向に変えた。

 ここまでくれば、俺たちへの害意がある事は確実である。

 向こうもその事を隠す必要が無いと判断したのか、黒いTシャツの男が言った。


 「おんやぁ。こんなところに、かわいいお嬢さんを連れたガキんちょがいるじゃんか」


 俺は鞄を佳織に手渡すと、両腕を目いっぱい開いて佳織を俺の背後に回した。

 佳織の後ろは植栽。

 これで、背後からの攻撃はない。


 「あらあー。こいつ生意気な坊主じゃね?

 彼女を守るってか」


 相手は三人。

 しかも、真っ当そうではないところから言って、一人一人でもそれなりに喧嘩に強いんだろう。

 にやにやしながら近づいて来ていて、完全に余裕だ。

 そして、その余裕がこいつらを無防備にしている。


 真ん中のTシャツ男が間合いに入った。

 先手必勝だ。

 左足を軸にして体を回転させ、右足で男の側頭部を狙った。

 まさか俺からいきなり仕掛けて来るとは思っていなかったらしく、見事なまで側頭部に俺の右足が命中した。

 頬を歪め、大きく目を見開いて、男はすっとんで行き、地面に突っ伏した。

 勢いをつけていた俺は右足が着地した時には、残りの二人に背を向けた状態だ。

 すぐに振り返ると、左側の男が俺に殴り掛かって来ていた。

 一撃目は油断していたとは言え、すぐに戦闘態勢に入れるところなんか、やっぱこいつらは喧嘩慣れした悪党のようだ。

 俺は前傾姿勢で男の拳をかわすと、上半身の右側を右腕と一緒に一度後方に引き戻し、その体のばねと共に、右こぶしを男の鳩尾に放った。


 「げはっ」


 そんなうめき声と共に、男がうずくまった。

 右側の男も俺に迫っている。

 右足で男を蹴り飛ばす。

 だが、体勢も悪く、足の力だけでの攻撃でしかない。

 男は少し後退した後、怒りの形相で俺に向かってきた。

 その間に俺は体勢を立て直していた。

 こいつは何で攻めてくる?

 足か拳か?

 右か左か?

 俺の頭の中がフルスロットルで、目から入って来る情報を処理していた。


 その俺の目に、男の左顔面にめり込む拳が映った。

 細く、白い腕。その先につながる細く白い指を握りしめた拳が、めり込み、醜く歪んだ顔。

 歪んで無理やりこじ開けられた唇の隙間から、歯と歯茎がのぞいている。

 突然の出来事に、何事かと左側に寄せようと男の視線も、歪んだまぶたの中で動いている。

 その次の瞬間、男はすっとんで行って、地面に横たわった。


 「別に感謝してほしくて、やった訳じゃないんだからね」


 佳織がすまし顔で言った。


 「あ、ああ。でも、ありがとう」

 「私はあの田島が嫌いなんだよね。これはきっとあいつの仕業だよ。

 失敗したって知ったら、また狙ってくると思うわよ。粘着質っぽいから」


 嫌いなのか? 俺はちょっと、その言葉に驚き、ちょっと呆然となってしまった。


 「何、黙り込んでいるのよ」

 「あ、ああ、いや」


 そう言って、辺りを見渡した。

 倒れている男三人。

 まあ、このままほっといていていいか。


 「行くか」


 その言葉に佳織が頷く。

 地面に転がっている自分たちの鞄を手に取ると、再び歩き始めた。

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