時は来た!
時は来た。
授業を終えた俺は廊下の窓から見える中庭に目を向けながら、歩いて行く。中庭のイチョウの葉は黄色に変色し、地上をその葉で覆い隠そうとしている。
視線を廊下の先に移した。
階段の手前に、壁に寄り添うようにして立っている二人の男たち。
濃い紺のスーツに身を包んだ有栖川の二人のSPたちだ。
二人が立っているのは、女子トイレの入り口。
有栖川夏帆がトイレに行っているのだろう。
俺が近づいて行く。
ちらりと俺に視線を向けた後、正面に視線を戻した。
「私、ちょっと行ってくる」
俺の背後を歩いていた佳織がそう言って、俺を追い抜いて行く。
SPたちが、少し早足で近づいて来る佳織にちらりと視線を向けたが、それ以上に何かを警戒するような素振りは見せなかった。
SPの前を通って、佳織が女子トイレの入り口の中に消えた。
その直後、佳織の声が響いた。
「きゃあー」
その佳織の声は、SPたちや俺のような廊下にいた者たちはもちろん、離れた教室の中にまで届くほどの大きさだった。
廊下にいた生徒たちは何事と言う感じで、心配げな表情で近寄ってきた。
教室の中にいた生徒たちは廊下に面した窓や、ドアから顔をのぞかせて、様子をうかがっている。
女子トイレの中からの悲鳴に、SPたちは一瞬戸惑い、お互い顔を見合わせていたが、その中に飛び込んで行った。
「おい。どうした」
SPたちの声はそこで止まった。
俺も驚いた表情を作って、女子トイレの入り口を目指した。
開いたままの廊下に面した女子トイレのドア。
その先に見える一人の少女の立ち尽くした後ろ姿。佳織だ。
後姿だが、佳織は驚いて口のあたりを両手で押さえているようだ。
「おい。大丈夫か?」
「救急車を呼べ」
佳織のさらに奥に誰か女子生徒が倒れていて、その女子生徒を抱えるようにして、SPたちが慌て気味に言った。
何事かと様子をうかがうように、トイレの中を覗く生徒たち。
SPたちはまずはその場所から出るべきと判断したようで、ぐったりとした女子生徒を抱えて、トイレから出てきた。
廊下に寝かされた小柄な女子生徒。
間違いなく、有栖川夏帆だ。
「おい、大丈夫か?」
有栖川の頬を軽く、ぺちぺちとSPが叩いているが、有栖川は全く反応しない。
顔色が悪いと言う事はないが、意識が無いようだ。
有栖川が反応を示さないので、SPは有栖川の脈と呼吸の確認をし始めた。
廊下に横たわっている有栖川を前に、もう一人のSPがスマホを耳に当て、救急車の要請を行っていた。
トイレの入り口から出てきた佳織は入り口付近で立ち止まったまま、小さく震えている。
「君、見た事を全て話したまえ」
有栖川の脈をみていたSPが佳織に視線を向けて、たずねた。
「えっ! は、は、はい。私がトイレに入ったら、床に倒れていました」
その声量はか細く、しかも微妙に震えている。
顔の表情も怯え気味である。
どこから見ても、倒れている同級生を見つけて、驚きと戸惑い、そして心配に陥った女の子のようじゃないか。
全く、ヒューマノイドの進化は恐ろしいものだ。
倒れている有栖川。
集まってきた生徒たちが、心配そうにそれを見つめている。
佳織は俺の横にやって来て、やっぱり心配そうな表情で、じっと有栖川を見つめていた。
ざわめく廊下。
先生たちも駆けつけてきて、心配そうに有栖川を見守っている。




