行動を起こすのは秋だ!
俺が語った有栖川の話を聞き終えたすみれ子の目は、大きく見開いていた。
「それは本当の事なんですか?」
「有栖川が嘘をつく理由はない。それに、あいつの日頃の態度を見ていれば、この話が本当の事だと、俺には分かる」
俺はすみれ子をじっと見つめ、すみれ子の返事を待った。
「はぁー」
すみれ子が深いため息を漏らした。
「その有栖川さんの願いは危険すぎませんでしょうか?
そんな事をすれば、お父様の逆鱗に触れかねないと思いますけど」
それは、すみれ子に言われなくても分かっている。
お父様からは見放され、山城の家から追放される可能性が高い。
大久保の姿が明日の俺の姿になる。
クローンや有栖川のためだけに、そこまでする理由は無い。
だからこそ、今まで俺は戸惑っていたんだ。
そんな俺を苦しめるのは、人体実験に使われているクローン達の姿。
そこに有栖川の話が重なったイメージを、俺の頭の中に浮かび上がらせる。
クローンは製造物なんかじゃない。
俺は何不自由なく育ってきたため、甘ちゃんなのかも知れない。
現実を知らない理想家にすぎないのかも知れない。
それでも、俺はクローンたちを製造された機械か何かのように扱う事を認める事はできない。
俺は自分の決意を固めるため、大きく一度頷いた。
「俺もそれは分かっているつもりだ。でも、俺はこの道を選ぶ。
それに、たとえ俺が山城の家から追放されたとしても、そもそも山城の家の全てはすみれ子が継ぐべきものなんだ。
だから、俺としてはすみれ子が山城の家の全てを継ぐなら、それでかまわない」
「まったく、島原のお兄様は本当に」
そこまでで、すみれ子は一度言葉をとめた。
すみれ子は瞼を一度閉じてから、大きく見開いて俺を見つめた。
「大久保のお兄様と島原のお兄様を足して二で割ると、ちょうどいいのかも知れませんね。
ですが、私は島原のお兄様のその優しさと純粋さは好きです。
ですので、協力させていただきますわ。最後まで」
その言葉を言い終えたすみれ子の表情は真剣だった。
その真剣さとすみれ子の協力に感謝するためにも、すみれ子を巻き込む訳にはいかない。
「いや。最後まで付き合わせる気はない。
それでは、すみれ子にまで責任が降りかかる。
全ての責任は俺一人でいい」
俺はすみれ子以上に真剣なまなざしで、すみれ子を見つめた。
俺はこれだけは譲れない。そう言う決意を伝えたい。
数秒の沈黙の後、すみれ子が折れた。
「分かりました。私にして欲しい事だけ、伝えてください」
「すまない。よろしく頼む」
俺は車の中で、頭を下げた。
俺の決意は固まり、行動に移すことをすみれ子に表明してしまった。
もう男として、後戻りはできない。後は実行するだけだ。
約一年の時を遡ってきた俺の頭の中には、一年間の出来事の記憶がある。
俺が戻って来て、干渉した事で、多くの出来事が変化してしまっている。
とは言え、俺がそう関わらなかった事象はあの一年と同じプロセスを歩んでいるに違いない。
行動を起こすのは人生リセットスイッチのワーキングサンプルができあがるはずの秋だ。




