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あと必要なのは、俺の決断だけである

 車が停車してから、しばらくが経った。


 「と言う訳なんです」


 そう締めくくると、すみれ子はにこりとして、首を少しかしげてみせた。

 俺が聞いたすみれ子の話を要約すると、こういう事だった。


 すみれ子のクローンを造った事で、激怒した山城のお父様は大久保を追放する事を決めたが、その前に今回の事件の全てを問い詰めた。

 そのすべての中には、俺が逮捕された馬町先端技術研究所の研究員 吉川元治に対する傷害事件も含まれていた。

 あれは完全な大久保の自作自演で、急所を外しながら、自分の部下を襲わせたらしかった。もちろん、実行犯は俺のクローンだ。


 そして、その日の俺のアリバイを無くすため、大久保は当時俺と険悪な雰囲気だった田島をそそのかした。

 田島は大久保の正体を知らなかったらしいが、大久保に手を貸し、里保のところに「今から行く」とか言う嘘の電話をクローン少女にさせたらしい。


 俺の正体も知らない田島には気の毒だが、山城のお父様の怒りは田島にも向かった。

 田島の家と宮島の家の関係を壊すため、山城家は宮島家の救済に乗り出すと共に、田島家への経済封鎖を開始した。

 今はまだ危機的な状況に至ってはいないが、田島家が近い将来、没落する可能性は高くなっているらしい。


 一方の宮島の家に対してだが、すみれ子が救済の条件として、クローン少女たちの処遇に注文を付ける事をお父様にお願いしたと言う事だった。

 「お兄様が里保さんの願いで、クローン少女たちを助けようとされた事は承知しておりましたので」

 そう言ったすみれ子の言葉で、今日の教室での田島の姿、クローン少女たちが転校生としてこのクラスにやって来たことの全てが納得いった。


 しかしだ。大久保と言う人間の冷徹さは、俺に衝撃を与えた。


 「たとえ急所は外すとしても、大久保は自分の部下に怪我を負わせた事になる。俺は自分のために、小早川に怪我を負わせるなんて、できやしないが」


 俺は言葉に出さずにいられない。俺の考えが普通だと言う返事が欲しくてたまらない。


 「大久保のお兄様は部下は自分の駒くらいにしか、お考えになっていなかったのではないでしょうか?

 ですので、自分のために怪我をするくらいの事は何でも無い事とお思いになっていられたのだと思いますけど」

 「それが上の者として、普通だと思うか?」

 「私は間違っていると思います。それでは真に人は付いてはこないのではないでしょうか? この人のためなら死ねると自分から思われるほどでなければ、リーダーとは言えないと思いますけど。大久保のお兄様に、そんな思いを抱いていた方がおられるとは思えません」

 「そうだよな」


 俺が頷いた時、すみれ子は話を続けていた。


 「あの時、大久保のお兄様は本気で、島原のお兄様を葬る気だったと思いますよ。

 今回は無事でしたけど、危ないところでした。

 お気をおつけになってくださいませ」

 「ああ。しかし、それはすみれ子もだ。

 クローンまで用意するや奴がまたいつ現れるか分からないぞ」


 クローン。

 俺の心が自分で発したその言葉に反応した。

 東海化学の地下で見た製造装置の培養液の中で、形成されていくクローンたち。

 何かの製品であるかのように、機械によって製造されていく。

 そして、機械と同じように、その尊厳などないかのように扱われていく。

 人間と全く同じ生き物だと言うのに。


 すみれ子はクローン少女たちを救ってくれた。

 運命かも知れないと思いつつも、未だ願いをかなえる決断ができないでいた有栖川の願い。

 有栖川は俺に自分のクローン少女たちを救ってくれと、頭を下げた。

 自らの愚かさをかみしめながら。

 すみれ子に言っていない有栖川のその願い。


 有栖川の願いをかなえるためにあと必要なのは、俺の決断だけである。

 なのに、自分の身可愛さに、知らんぷりなんて、できやしない。


 「なぁ、すみれ子。少しだけ、俺に協力してくれないか」


 俺は全てを話した。俺が聞いた有栖川の願いと、それを実現させる方法。

有栖川の願い。自分のクローン少女たちを救ってほしい。

それがどう言う事なのか。

もう少し先で明らかになります。


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