すみれ子との下校
俺は佳織と校舎の壁にもたれながら、校舎の正門に目を向けていた。
校舎前のロータリーには次々にお迎えの車がやって来ている。
すみれ子を迎えに来ているポールスポイスはいつもの場所で停車したままだ。
「ねぇ。すみれ子さんの車の中で待てばいいんじゃいの?」
佳織が俺の腕をつんつんしながら言った。
待つと言う事が、どうも不得意らしい。
一体、どんなチューニングなんだと思わずにいられない。
佳織のチューニングは、俺の意識の潜在的な部分まで掘り下げて得られたデータを基に分析した、俺の好みのタイプに合わせている。
その成果あって、ほとんどの部分において佳織は俺の心を鷲づかみにする。
だが、この待つことが不得意なところだけは、ちょっとずれている気がしてならない。
「すみれ子のボディガードたちが、勝手に俺を乗せてくれる訳ないだろ」
俺の返事に佳織が口先を尖らせている。この前も、そんな表情をしていたはずだ。
まあ、あやふやな人間でもほとんどの場合、同一環境下では同一の行動を取ってしまう傾向が強い。
判断にぶれが無い佳織なら、なおさらだ。
そう思って、視線を校舎の正門に戻した。
多くの生徒たちの中、正門の前に一歩踏み出して立ち止まった状態で、辺りをきょろきょろと見渡すすみれ子がいた。
俺を探しているんだろう。
俺は少し早歩きで、すみれ子に向かって行く。
すみれ子を見つけたお迎えのポールスポイスもすみれ子に向かって、動き始めた。
近寄ってくる俺をすぐに見つけたすみれ子が、少し首を横に傾げながらにこりとした。
すみれ子と俺たちの空間の邪魔にならないように、周りの生徒たちが一歩引き下がった。
物理的な距離は下がったが、興味と言う距離では彼らは下がっていないようだ。
「また、あのお方ですわ」
「島原さんとおっしゃるらしいですけど、一般の庶民の方らしいですわ」
俺とすみれ子の事をひそひそと話をしている。
すみれ子の前に停車したポールスポイスのドアはすでに開けられていて、すみれ子が乗り込むのを待っていた。
「佳織さんからどうぞ」
すみれ子の言葉に、佳織が軽く会釈して、先に乗り込む。
続いて、俺が乗り込むと、最後にすみれ子が乗り込んだ。
ボディガードの男が後部座席のドアを静かに閉じると、助手席に乗り込んだ。
今まで、すみれ子の車に乗り込んだ生徒はほとんどいないはずだ。
俺が知っている限りでは、変装した有栖川を連れ出すために、乗せた事があるだけだ。
それだけに物珍しく、生徒たちの興味に満ちた視線は俺たちに向けられていた。
静かに動き出すと、みなの視線がこの車を追っているかのようだ。
「ここですと、ゆっくりとお話ができますね」
すみれ子がにこりとして言った。
「ああ。そうだな」
「えーと、ですね。話は長くなるのですけど」
そう言って、すみれ子は話始めた。
本当に話は長くて、話が終わる前に、俺たちを乗せたポールスポイスは俺たちのハイツに到着してしまい、ハイツ前に停車したまま、そこでも話が続いた。
ハイツ横の交番のお巡りさんが、道路に停車し動こうとしないポールスポイスに一体何事かと、ちらりちらりと時折視線を向けているのが、すみれ子の向こう側に見えていた。




