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すみれ子からの返信

 すみれ子は佳織と違って、普通の人間だ。

 佳織のメールに返事を返すにはそれなりの時間が要るだろう。

 しかもだ。教室の中で、先生の目を盗みながら打つ分、余計な時間を費やしそうだ。

 そう思って、俺はもう一度正面に視線を向けた。


 「と言う訳で、よろしくお願いします」


 宮前と名乗った元宮島やよいのクローン少女がぺこりと頭を下げた。

 カチューシャをしていない状態では、彼女が何号だったのかは俺には分からない。

 その横の二人目のクローン少女が一度ぺこりと頭を下げてから、自己紹介を始めた。


 「はじめまして。私は宮中梨央です」


 宮島の家を継げなくなったと言う事への失望感は無いようで、その顔に浮かんでいる笑みは、クローン少女たちが今までに見せた事が無いほど輝いている。

 

 俺はその時、田島の事が頭に浮かんだ。

 田島はこの状況をどう思っているのか?

 そう思って、視線を向けた。

 驚いた表情で三人を見つめているのかと思えば、がっくり肩を落とした後姿で、視線は自分の机の上に落ちているようだ。

 どうやら、田島はこうなる事を知っていたか、予感していた感じだ。


 どう言う状況なんだ?


 そんな事を考えているうちに、前に座っている佳織が突然、ノートに文字を書き始めた。

 すみれ子からの返事を書き写しているんだろう。

 この状況を説明するには、それなりの長さの文だと思っていたが、佳織の手はすぐに止まった。

 佳織は前を向いたまま手を回して、たった今書き上げたノートを俺の方に差出した。

 ピンクっぽい表紙のノート。

 俺はそれを受け取り、中を開いた。

 乱れがない丸文字が並ぶノート。

 それをぱらぱらとめくり、最後のページに目を向けた。

 やはり、山城の家が絡んでいた。


 「ごめんなさい。お兄様。

 ちょっと驚かそうかと思っちゃいました」


 そう言う書き出しで始まったすみれ子のメール。

 すみれ子の言葉なのに、佳織の全く乱れのない丸文字で書かれているところに、少し違和感を抱きながら、次の文章に目を向けた。


 「ご想像通り、私がした事ですけど、お話が長くなりますので、今日、ご一緒に帰れませんでしょうか?」


 説明が長くなると言うのは、俺の想像どおりのようだ。

 それを教室の中で、先生の目を盗みながら、メールするのはできない。

 そう言う事だろう。


 俺はそのページに書かれているすみれ子からのメッセージの下に「分かった。今日、一緒に帰ろう」と書き足した。

 全く乱れる事の無い佳織の文字の下に、完全な再現性を持たない俺の文字が並んだ。

 機械とは違う人間のあやふやさ。

 それが時には良い方向に向かったり、悪い方向に向かったりして、運命を変えたりする。

 ただの文字が並んでいるだけだと言うのに、そんな事をふと考えてしまった。


 俺はそのノートを閉じると、前を向いている佳織の背中に、ノートの角でつんつんした。

 ノートの角の感触が気に入らなかったのか、佳織はちょっとムッとした表情で振り返った。

 佳織の視線が俺の顔から、自分の背中のあたりに移った。

 俺の手にノートがある事に気付くと、手を差し出して、ノートを受け取った。

 俺のメッセージはすぐにすみれ子に送られたはずだ。

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