人間になったクローン少女たち
他のクローン少女たちが来ていない事実。そして、うれしそうな2号。
俺の頭の中で、最悪の結末が思い浮かんだ。
一度は助けてやる気になりかけた1号と4号。
宮島やよいのクローン少女たちは処分されたのか?
俺の全身から汗が噴き出した。
慌てて、教室を見渡した。
クローン少女たちの机は、元の位置に置かれたままだ。
5号、つまり里保の時、机は教室の片隅に片づけられていた。
どう言うことなんだ?
最悪の結末とそれを否定しようとする気持ちが交錯した俺の頭脳は迷走していた。
普段は感じない鼓動で、俺の身体が脈打つように揺さぶられている。
これが鼓動が高鳴ると言うものか。
そう感じていた時、俺の鼓動より早いテンポで、廊下の向こうから足音が響いてきた。
先生の到着だ。
俺の思考が現実に引き戻された。
足音が多い?
先生一人の足音に混じって、いくつもの足音が聞こえている事に気付いた。
歩幅が違うのか、比較的ゆっくりとした大きな足音。
その速度に合わそうとしているのか、テンポの速いいくつもの足音が混じっている。
その気配に、俺以外の者たちも気付いていたようで、みんなの視線がドアに集中した。
ゆっくりとドアが開き始めた。
みんなの視線が開いたドアの向こうの人物に向かった。
担任の新谷先生。
その背後に数人の女生徒の姿があった。
「えーっ」
「どう言うこと?」
「またあ?」
担任に続く女生徒たちの姿に、教室の中は騒然となった。
どう見ても、宮島やよいのクローン少女たちだ。
背後の里保の事が気になり、振り返ってみると、里保は驚きで目を見開き、鼻と口のあたりを両手で覆っていた。
「当番」
自分が教壇の上に立っても、騒然としている状況にきつい口調で、新谷先生が言った。
「起立」
号令がかかると、一気に私語は収まった。
代わりに椅子が引きずられる音がして、クラスの全員が立ち上がった。
「礼」
「おはようございます」
普段の声、普段の態度でお辞儀をすると着席し、正面を真剣な表情で見つめた。
「今日は三名の転校生を紹介します」
そう言った担任の横に立つ三人の宮島やよいのクローン少女たちは、晴れ晴れとした表情だ。
まるで、里保の時と同じじゃないか。
ただ違うのは、あの時は俺が仕組んだ事だったが、今回の事は俺には寝耳に水だった。
これを仕組んだ者。
すみれ子以外ありえない。
いや、宮島の家から、クローン少女たち三人を手放させたのだから、すみれ子の背後に山城のお父様がいた事は間違いないだろう。
「えー。自己紹介してもらいますが、まず左側が宮前瑞希、そして……」
担任がそんな事を語りだした時、俺は少し前のめりになって、佳織の肩を人差し指でちょんちょんとした。
何? そんな顔で振り返った佳織に、小声で言った。
「すみれ子に、メールを打ってくれ。これはどう言う事だと」
佳織を使ってメールを打つのは簡単だ。
一々文字を打つ必要もない。
しかも、「これは」と言うところも、ちゃんとこの教室で起きている状況に置き換えて、テキストデータを送ってくれるはずだ。
それも一瞬の内に。
きっと、今頃、すみれ子のスマホに着信が完了しているはずだ。




