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佳織が気づいた異変

 俺の視界の中で、この学園の校門がどんどん近づいて来ていた。

 セキュリティも万全なこの学園の校門には警備の人が詰める場所があって、出て行く車が近づくたびに車の出入りを制止するためのバーを上げていた。


 上がったバーの下を潜り抜け、学園の敷地から出て行く車。

 そんな車一台一台に敬礼して、見送る警備員さんたち。

 大変なお仕事である。

 俺たちのような徒歩の人間は車用のバーではなく、警備員さんたちの詰所前を徒歩で通り過ぎて行く。


 「どうも」


 そう言いながら、俺は詰所の中の警備員さんたちに軽く手を上げて、そこを通り抜けて行く。

 俺の横で佳織は軽く会釈して、通り抜けた。


 「お疲れ様でした」


 警備の人たちが俺たちにも、そう言って敬礼した。

 ここを抜けると校外である。

 街中の雑踏にある学校とは違い、山の手にあるこの学園を一歩出ると、そこには緑に恵まれた広大な公園が広がっている。

 その公園と学園を隔てる片側1車線の道路。

 送り迎えの車以外の車がそこを走る事は滅多にない。

 学園の敷地の最外周に張り巡らされた壁に沿って設けられた歩道も、滅多に人は通らない。

 この学園の生徒の一部が学園に併設された寮で暮らしていて、寮を目指して歩く生徒たちが通るくらいだ。

 今も俺たちのはるか先を数人の生徒たちが固まって歩いていた。

 俺は後ろを振り返って、車が道路上にいない事を確認すると、小走りに道路を横断した。

 佳織もその後に付いてきた。


 俺たちは寮に入ってはいない。

 この公園を抜けた先にあるハイツでルームシェアして暮らしている。

 緑を中心とした公園は小さな子供のためのものではなく、遊具の類は一切ない。

 と言うか、この公園の向こうに広がる住宅地に暮らす人々がたまに散策に使う程度で、ほとんど人の気配はない。

 全くもったいない公園である。


 幅2mほどの人が通るための道。

 その横には植栽が緑の輝きを放っている。

 俺たち二人の気配以外と言えば、小鳥のさえずりと木の葉が奏でる風の囁きくらいだ。


 そんな二人だけの空間。

 だからと言って、手をつないだりはしない。

 先で少しカーブを描く道。

 その道の先には少し広い場所があって、道は十字に交差していた。


 「あー、珍しいわね」


 俺の横の佳織が突然言った。


 「何が?」

 「さあーて、何でしょうか?

 でも、すぐに分かっちゃう訳だけど」


 佳織の顔はいたずらっ子が悪戯をする前のように、嬉しそうじゃないか。これは良くない事の前兆だ。

 そうとしか考えられない。


 「ね、どうするの?どうするの?

 どうしたらいいか、私に聞きたい?」


 そう言いながら、佳織はまた俺の前に回り込んできた。

 俺はため息を一度ついてから、右腕で佳織を押しのけた。


 「聞きたかない」

 「なあーんだ。つまんない」


 佳織は今度はがっかりした表情で唇を尖らして、肩をがっくりと落とした。

 遊んでとねだったのに、遊んでもらえなかった小さな子供のようじゃないか。

 そんなに言いたいのなら、言えよと言いたいところだ。


 俺は全神経を周りに集中させた。

 木の葉が奏でる風の囁きと小鳥たちのさえずり以外を感じる事はできない。

 俺の視界の先に道が交差する広場が見え始めた。

 その広場を介してまっすぐにつながる道の先に一人の男がいる事に気付いた。


 真っ黒な生地に白い文字と蛇が絡んだどくろのマーク。

 首にかかった極太の金色に輝くネックレス。

 短い金色に染め上げた髪。

 ガムを噛んでいるのか、顎が動くたびに唇につけたピアスがぴかぴかと陽光を反射する角度を変えている。


 俺は真っ当な奴じゃないぞと全身でアピールしている。

 佳織はこれに気付いていたった事か。

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