夏休み明けの朝
夏休みも終わり、九月になった。
相変わらず、日差しはきつく、秋の気配はまだ遠い。
久しぶりに教室に姿を現すクラスメートたち。
とは言っても、俺や佳織、里保の所にやって来て、この夏の出来事を話すような奴はいない。
上流階級には上流階級どうしのつながりがある訳で、俺たち庶民とあえて関わる必要などないのである。
もっとも、庶民の立場に生活基盤をおいてはいるが、俺は本当の意味での庶民ではないのだが、そんな事周りの連中が知る訳も無い。
ちらりと有栖川に目を向けると、この夏の間にあった出来事など無かったかのように、無表情で難しい本を見つめている。
さて、どうしたものか。
有栖川のクローンを一体を助けて、手に入れてしまった。
そう。手に入れたと言う勇気は無い。
手に入れてしまった。そんな気分だ。
有栖川の願いをかなえる鍵とも言える、有栖川のクローン。
有栖川の願いがかなえられる時、有栖川のクローン達は解放され、二度と有栖川のクローンは作られることは無くなるだろう。
だが、その代償は大きい。
俺は頬杖をついて、ぼんやりと黒板を見つめながら、そんな事を考えていた。
一人、二人とクラスメートたちが、ドアから教室の中に入って来て、俺の視界の片隅に刺激を与えていく。
ピンク色の移動物。
そんな色彩に、俺の視線がドアに向かった。
ピンクのカチューシャをした宮島やよい 2号だ。
夏休みが明け、再び学校だと言うのに、その表情は夏休み前より生き生きしている気がする。
「おはようございます」
教室の入ったところで、明るく挨拶して、自分の席を目指している。
「何だか、2号がうれしそうなんだけど」
佳織が振り返ってきた。俺と同じ事を感じたようだが、そんな事を言われたって、その理由を俺が知る訳がない。
「夏休みにいい事があったんじゃないのか?」
「宮島の家はお金に困っているから、そんないい事なんてないと思うんだけどなぁ」
俺の言葉に、すぐ里保が反応した。
里保は少し首を傾げ気味にして、じっと2号を見ている。
まあ、俺たちがここで悩んでみても仕方ない事だし、そんな必要もない。
俺としては有栖川の方が気になってしまう。
また毎日、有栖川と顔を合わせる訳だし、いつあの話に関して、話しかけてくるか分からない。
悩ましい思いにとらわれている内に、チャイムが鳴った。
生徒たちは自分の席に座り、じっと先生がやって来るのを待っている。
しかし、授業が始まろうかと言うのに、空席が目立っていた。
誰が来ていないんだ?
そう思ったのは一瞬だった。教室の中に華やかな色彩が少ない。
俺の席の位置からも宮島やよいのクローン少女たちのカチューシャがちらりちらりと見えたものだ。
その宮島やよいのクローンたちのカチューシャが見えない。
と言うか、宮島やよいのクローン少女たちが2号以外来ていない。




