戦い終結
偽物のすみれ子はどうしていいのか分からず、大久保の横で呆然としている。
指示を仰ぎたいのか、時々その視線を大久保にちらりちらりと向けているが、大久保は四つん這いになって、うなだれたままだ。
すみれ子を追い越して、ボディガードの男が大久保の所に近づき、大久保の身柄を拘束した。
ヒューマノイド相手では、人間の力など無に等しい。
大久保はもはや逃げる事もかなわない。
「すみません。
私と同じ顔のあの子を私のボディガードたちは捕える事はできません。
捕まえて、いただけませんか?」
すみれ子が振り返って、俺に言った。
佳織や東原には、俺や大久保は刃向ってはならない相手として、プログラムされている。
だが、すみれ子やお父様の周りにいるヒューマノイド達には、俺や大久保は関係ない。
すみれ子が引き連れてきたボディガードたちは、大久保には手出しできるが、すみれ子のクローンには手出しできないんだ。
俺はそう理解した。
「分かった」
俺はそう言って、偽物のすみれ子に近づいて行った。
自分を捕えようと近づいて来る俺から、偽物のすみれ子は逃げ出しはじめた。
走って追いかける。
相手は所詮はただの女の子だ。
俺の足に勝てる訳がない。
その距離は見る見る縮まって行き、俺は偽物のすみれ子を捕まえた。
「いや、離して」
「悪いようにはしないから」
その言葉は本心だった。
確かに、俺を罠にかけた犯人だが、言わばこの子はただの操り人形でしかない。
この子に対して、俺は悪意なんか持っちゃいない。
とりあえず、逃げられないように腕を掴んで、すみれ子の所に連れて行く。
「いや、いや。離して。
お願い」
さっきまでのすみれ子を装っていた時とは打って変わって、ただの助けを求める非力な女の子でしかない。
必死で俺から逃げようとあがく偽物のすみれ子を引きずるようにして、すみれ子に近づいていく。
俺の耳に届くのは、この子の哀願気味に叫ぶ声だけだ。
さっきまで、B2から聞こえていた激しい戦いの音が、聞こえてこない。
その事に俺は気づいた。
偽物のすみれ子を引きずるようにして廊下を進みながら、俺はガラス越しにB2の様子に目を向けた。
東原の胴体が床に突っ伏して、無くなった首の部分から、電気配線のコードやら構造体と思しき金属など、内部の構造物の一部がのぞいていた。
その東原の残骸を見下ろすように、すみれ子のボディガード二人が立っている。
今回、俺は小早川さんに頼んで、佳織を密かにパワーアップさせてはいたが、東原を圧倒するほどの差をつける事はできていない。
だが、すみれ子のボディガードはどうやら、俺や大久保を守るために付けられたヒューマノイドを圧倒する能力を有しているようだ。
あたりに目を向ける。
B2に置かれていたクローン製造装置は完全に破壊しつくされていた。
実際は故意だが、ヒューマノイド二体が激突したんだ。
事故と言ってごまかしきれるはずだ。
そんな破壊された一つのクローン製造装置の前に、佳織が立っていた。
その腕には有栖川のクローンが抱かれている。
黒く長い髪は前髪も異様に長く、装置から出されたままの状態で、一糸纏わぬ姿でまだ眠りについたままのようだ。
そして、年恰好は結希とは違って、今の有栖川とそっくりだった。




