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すみれ子の威厳

 エレベーターから6人の男たちが降りてきて、三人ずつ、エレベーターのドアの左右に並んだ。

 6人が降りた事で、奥まで見渡せるようになったエレベーターの中には、一人の少女がいた。

 黒いストレートの髪。

 すみれ子である。


 垂らした前髪の下からのぞく大きな瞳は、普段とは違って怒りを映しているのか、睨みつけるように前を見つめていた。

 男たちに抱え込まれた俺に、ちらりと視線を向けたかと思うと、引きつれてきた6人の男たち、正確にはヒューマノイドのボディガードに指示を出した。


 「島原さんをお助けして」


 すみれ子の声と同時に、俺の腕を掴んでいた男たちの腕が、本物のすみれ子の、これまた本物のボディガードたちにねじ上げられた。


 少し鈍い音がした。

 同時に男たちが、醜いうめき声を上げて、俺の腕を離した。


 男たちをねじ伏せた二人のボディガード。

 残りの四人のボディガードは、まだエレベーターのドアを左右から固めている。


 「すみれ子」


 俺の言葉にも、すみれ子はにこりともせず、表情を崩さない。

 それだけ、事が重大すぎるんだ。

 その姿に、山城家の威厳さえ感じてしまう。

 やはりただのかわいいだけの女の子じゃない。


 すみれ子は真剣な表情のまま、エレベーターを降りた。

 廊下にいた男たちはもちろん、大久保も、偽物のすみれ子も本物のすみれ子の登場に気付いている。


 どうやら男たちはさっきまでいたすみれ子が偽物だとは知らなかったようで、二人のすみれ子に視線を行ったり来たりさせながら、戸惑っている。


 「どうして、ここに」


 大久保の声が上ずっている。

 墓穴を掘ってしまった事に気付いているようだ。


 「佳織さんから、メールをもらいました。そして、佳織さんの捉えた映像全ても送ってもらっていました」


 偽物のすみれ子の車に乗った時に送った、佳織へのもう一つの指示はすみれ子に連絡を取ってみてくれと言う事だった。

 そして、もしも横にいるすみれ子が偽物だったら、佳織が映し出している映像を音声付で、すみれ子に送り続けろと言う事だった。



 「そんなばかな。最初から、ばれていたって事か?」


 大久保の顔は真っ青である。

 山城家の大半の力を手に入れる妄想を描き、それが実現できると確信していたはずだ。

 それが、逆に全てを失う瞬間に叩き落されているんだ。


 「俺を迎えに来たすみれ子のボディガードが、汗を流す姿を見て、もしやと思ったんだよ。

 すみれ子のボディガードなら、汗なんか流す訳ないからな。佳織たちと同じく、ヒューマノイドなんだから」


 俺は大久保に種明かしをした。

 この作戦がこんな暑い時期に実行されていなければ、俺はまんまと罠にはまっていたかも知れない。

 大久保の思慮が浅かったのか、俺に運があったのか、どちらかだろう。


 「島原さんのクローンだけでなく、私のクローンまで造ったって事に、お父様はご立腹です。

 それは明らかにお父様への反逆だと、おっしゃられました。

 大久保のお兄様は、お父様に捨てられる事になりました」


 睨みつけるような視線ですみれ子が放ったその言葉は、大久保を絶望のふちに追い込んだようだ。

 大久保はがっくりとひざから崩れ落ちた。

 その大久保を目指して、すみれ子が進んで行く。

 そのすみれ子に寄り添うボディガードたち。


 廊下にいた男たちは、すみれ子の威厳に押されたのか、壁に張り付くようにして、その針路を開けた。

 顔色は真っ青で、額に冷や汗を浮かべている者もいる。

 俺はその後ろについて、進んで行った。

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