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佳織! やってしまえ!

 大久保とすみれ子のほぼ真ん中あたりで、佳織と東原は組み合ったまま硬直状態に入った。

 ここで、すみれ子のボディガードたちが加勢すれば、すぐに決着はつくはずだ。

 数秒、いや何秒もの時が流れたが、すみれ子はボディガードたちに指示を出さないでいた。


 「さて、困りましたですね。

 佳織さんと彩香さんは同じ能力。決着はつかないですわね」


 すみれ子がそう言って、俺に振り返った。

 佳織と東原、二人の行動パターンと容姿は、俺や大久保の好みにチューニングされているが、その内部構造も能力も同じ性能のヒューマノイドである。

 すみれ子の言うとおり、決着なんかつく訳がない。


 「お前のボディガードたちを投入すれば、けりはつくだろう」


 俺は焦った表情を作り、早口でまくしたててみた。

 そんな俺に、すみれ子は笑みを浮かべながら、小首を少し傾げてみせた。


 俺は大久保に目を向けた。

 多勢に無勢。

 頼みの彩香が佳織とこう着状態だと言うのに、大久保の顔にも笑みが浮かんでいた。

 大久保と目が合った瞬間、大久保は軽く顎を振った。

 「やれ!」そんな感じだ。


 そう感じた瞬間、俺は背後に回っていた男たちに両腕を掴まれてしまった。

 慌てて、俺は腕をつかんでいる男たちの顔を見た。

 俺には視線を合わさず、まっすぐを見つめたままだ。


 「さて、佳織さんに助けを求めても、無駄ですよ。

 彩香さんと組み合っていますからね。

 これで、あなたを守る邪魔者はいなくなりました」


 俺の方に体を向き直し、すみれ子が言った。

 そのすみれ子に向かって、大久保が歩いて来ようとしている。

 途中で組み合っている佳織と彩香の横を大久保がすり抜けて行く。


 一応、佳織のプログラムの中では山城の家の者。

 それだけに、佳織のプログラムは大久保に対して、攻撃できない。

 悠然と歩く、大久保。

 すぐにすみれ子の横に並んだ。


 「大丈夫ですよ。島原せ・ん・ぱ・い。

 あなたの代わりのクローンはちゃんといますから。

 後の事は、俺に任しちゃってください」


 得意げじゃないか。全く。

 どうやら、こいつは俺が東海化学で起こした事件の報復と言うレベルではなく、完全な俺の抹殺が目的だったようだ。

 これで、山城の家の力の半分はいずれ確実に自分のものになる。そう思っているようだ。

 いや、こいつはすみれ子も追い落とし、全てを手に入れるつもりかも知れない。


 「連れて行け」


 大久保の言葉に、俺を掴んでいた男たちが、俺の体を両側から抱え上げるようにして、向きを反転させた。

 俺の背後に回っていた男たちが廊下の両端によって、俺を抱える男たちのために道を開けた。

 その表情は達成感に満ちている訳でもなく、まだ緊張感を引きずっているかのように、強張り気味に見えた。

 俺は抱えられたままで、目の前はもうエレベーターである。

 エレベーターの表示は4階を指していて、降下中だ。


 「佳織、状況を報告しろ」


 俺は大声で叫んだ。


 「目の前なんだから、報告なんて意味ないわよ」


 その言葉に俺はにやりとした。

 佳織の返事の意味など、大久保たちに分かる訳も無い。

 彩香と組み合って動けないのは分かっているだろうくらいにしか、受け取れていないはずだ。


 俺はすみれ子と車に乗った時、全てを計画し、佳織にメールで指示を送っていた。

 佳織の体の中には携帯の送受信装置も組み込まれていて、俺が送ったメールはすぐに佳織の人工頭脳の中に読み取られている。


 「佳織。予定通り、やってしまえ」


 俺の言葉が終わるかどうかの内に、ガラスが割れる音が響いた。

ついに、佳織の正体が明かされました。

クローン、ヒューマノイド、超スーパーコンピューターありの世界でした。

しかも、佳織は主人公の好みにチューニングされていたんです。

これは第4部 「時間をリセットなんて!」の中で、ちらりと出てきています。

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