発見! 有栖川のクローン
5階のボタンだけが光を放っているエレベーターは徐々に上昇し、俺たちを5階に運び上げた。
静かに停止すると、ドアがゆっくりと開いた。
その先には少し広めの廊下があって、すぐ横には階段が見えていた。
すみれ子はさっさとエレベーターを降りると、右に曲がって行った。
すみれ子はここの造りを知っているらしい。
ボディガードの二人、そして俺と佳織がその後ろを続いていく。
省エネのためか、照明が半分消された廊下を進んで行く。
この会社の社員が俺たちの事をちらりとだけ見て、すれ違った。
これだけ規模が大きい会社だと、ちょっとくらい見知らな人がいても誰かの来客だと思うのだろう。
すみれ子が右に曲がって、俺の視界から姿を消した。
右にも廊下がつながっていた。
そこを曲がると、大きなドアがあって、その横にセキュリティのためのカードリーダーが設けられていた。
小さな手ですみれ子が自分のICカードをカードリーダーにかざすと、ピッと言う電子音と共にドアが解錠した。
ドアのロックが解除されたのと同時に、ボディガードの人がその大きなドアを開いた。
そこは居室のようで、何人もの人がデスクワークしていた。
俺たちがその場に足を踏み入れたが、そんな事誰も気にしていないようで、誰一人俺たちら視線を向けることなく、机に向かって仕事を続けていた。
デスクワークしている人たちと俺たちの間には腰の高さくらいまでのロッカーがおいてあって、通路と仕事の空間を分離している。
俺たちはその通路の空間を通って、その部屋の片隅に設置されているエレベーターを目指した。
エレベーターが止まっている階を示すボタンが並んでいる横に、またカードリーダーが設けられている。
このエレベーターは限られた人しか乗れないらしい。
すみれ子がカードを近づけると、ピッと言う電子音がした。
すみれ子が持っているカードはさすがに、ここでもフリーパスらしい。
すみれ子が「下」のボタンを押した。
エレベーターがB2から上昇し始めた。
エレベーターはすぐにやって来て、短い電子音と共に、その扉を開いた。
ボディガードの一人が扉を手で押えているエレベーターの中に、すみれ子が進んで行く。
俺たちもそれ続いて中に入った。
ボディガードの二人も乗り込むと、扉を閉じるボタンを押した。
ゆっくりと扉が閉じる中、操作ボタンが並ぶ横に設けられたカードリーダーに、すみれ子がカードを近づけた。
エレベータを呼ぶのにもセキュリティ、向かう階を設定するのにもセキュリティ。
かなりのセキュリティだ。
それだけ、クローン開発は秘密裏に行われていると言う事なんだろう。
すみれ子がB1のボタンを押した。
俺はここの地下でクローンが造られている事は知っているが、B1とB2の違いまでは知らない。
俺たちを乗せたエレベーターはすぐにB1に到着し、その扉を開いた。
その先に、真っ直ぐに伸びた廊下が目に入った。
廊下の右側には窓も扉も無く、ずっと壁が続いている。
廊下の左側は一面のガラス張りだ。
そして、まっすぐ伸びた廊下の先に、何人かの人影が見えた。
ガラスを覗き込んでいるようだ。
すみれ子はボディガードの二人を従え、廊下を進んで行く。
ちらりとガラスの向こうに目を向けた。B2を見下ろせる構造のようだ。
そのB2には円筒状のガラスで内部が確認できる構造のクローン製造装置が並べられていて、その内のいくつかは稼働していて、薄いオレンジ色の培養液の中にクローンの姿が見て取れた。
俺はそのクローンたちの容姿を注意深く見つめていた。
俺が探し求めるクローン。
それは有栖川夏帆。
違う。違う。その先の少女は?
ここからでは、はっきりとは言えないが、有栖川の可能性が高い。
俺の頭の中に、有栖川が頭を下げていた姿が浮かび上がってきた。
家を出てすぐに、車の中からスマホでメールを送った時から、その準備はしていたが、まだ決断できないでいた。
そして、その決断を天に任せる事にした。
ここに有栖川のクローンがいて、これが罠だったら、俺はここのクローンを救い、有栖川の願いを叶える運命だったんだと考える事にしていた。
「ふぅー」
また一つ、俺の背中を押す結果となった。
あとは、これが罠なのかどうかだけだ。
俺がため息とも気合とも言えない声を上げた時、俺は背中をつんつんされた。
振り返ると、佳織が人差し指で廊下の先を差していた。
俺がその先に視線を向けると、すみれ子がひと騒動起こしていた。




