スーパーコンピューター ありす
図書室ははっきり言って広い。
入ったすぐ前には多くのテーブルが並んでいて、こんな日だと言うのに、意外に多くの生徒たちが本を読んでいた。
その左右には多くの本棚が置かれていて、図書室の中、全てを入り口から一望できるようにはなっていない。
人気の無いへたな場所に隠れるより、ここの方が見つかりにくそうだ。
思わず、有栖川がここを選んだ理由が分かった気がした。だが、その分、俺もすぐに有栖川を見つけられないではないか。
図書室の中に入って行く。
しんと静まり返った図書室。
本のページをめくる音と俺たちの足音だけが、この部屋の中の音だ。
目の前のテーブルが並んだ空間に有栖川の姿はない。きっと、本棚が並んでいる場所のどこかに潜んでいるんだろう。
右か? 左か? 俺が迷っていると、右側に並んでいる本棚の隙間から、有栖川が姿を現した。
右手でくいくいと俺たちを手招きしている。
天才少女もこんな仕草をするんだ。思わず、俺の顔が緩んだ。しかし、相手の有栖川の表情は真剣そのものだ。
俺が向かって行くと、有栖川はさらに本棚が並ぶ空間の奥に入って行った。
その後を俺と佳織が追って行く。有栖川がようやく立ち止まったのは右側に並ぶ本棚のほとんど最深部近くだった。
「西野さんも一緒なの?
あなたと西野さんはいつも一緒なのね?」
「一緒だったら、何だって言うの?
あっ、分かった。羨ましいんだぁ。あんたに寄りつく男って、あのSPだけだもんね」
佳織が意地悪そうな顔つきで、有栖川をからかった。
有栖川は、佳織の言葉にちらりと佳織に視線を向けただけで、すぐに俺に視線を戻し、淡々と話を続けた。
「分かったわ。時間がある内に話を終わらせましょう。
あの子はどこで、手に入れたの?
あの子の正体を知っているの?」
クローン。その言葉を発するのに躊躇したが、ここまでしている有栖川に嘘をつくのは得策ではない。俺はそう結論を出した。
「場所は言えないが、君が思っている通り、クローンだ」
俺の言葉に、有栖川はむすっとした表情を浮かべた。俺が見当違いな事を言ったと言わんばかりだ。
「私が聞きたいのは、誰のクローンかを知っているのかって事よ」
意外な事を聞いて来た。そんな事、知る訳もない。
俺の答えが不満足だったからなのか、SPたちに見つかる前に話を終わらせたいと言う気持ちが急かしているからなのかは知らないが、有栖川の口調は早く、そして少しきつい。
「いや。それは知らない」
「そう。じゃあ、次の質問。
あなたは宮島やよい5号を人間にした。あの子も人間にした。
つまり、あなたにはこの国のシステムを操る力がある。
それに間違いはない?」
「正確に言えば、俺にではないが、俺はある力を仲介して、それができる。
そう言う事だ」
「たとえば、山城すみれ子を使って、クローンを法律上の人間にしたり?」
そこまで分かっているなら、聞くなよ。
そう思った俺が、少し呆れ顔になりかけた時、有栖川は話を続けた。
しかもだ。話題はクローンからスーパーコンピューターにぶっ飛んでいた。
「スーパーコンピューター ありす。国家プロジェクトで、山城財閥もかんでいるんだけど、ありすを知っている?」
ありすの事は知っている。
なんでも、今までの演算だけが得意なスーパーコンピューターと違って、創造し、仮説を立て、膨大なデータを使った演算で、自分が立てた仮説の検証をある程度まで行えると言う我が国が誇る世界に一台しかない超スーパーコンピューターだ。
俺が頼んだ人生リセットスイッチの開発のためにも使われている。
だが、それと有栖川はどう関係があるんだ?
「知ってはいるが、それがどうしたんだ?」
「ありすを見た事はある?」
ありすを見てどうすると言うんだ。
きっと巨大な部屋がいくつものブロックに分けられ、その各ブロックにいくつものコンピューターが収められ、巨大な分散処理システムが構築されているはずだ。
外から見れるのは、そのブロックを区画している金属の筐体の枠組みと、その筐体に収められたコンピューターが発するLEDの明滅くらいのはずだ。




