どうして、クローンだって知っているんだ?
空から降り注ぐ暑い日差しは学校の中でも容赦しない。
入ったことの無い高等部。いずれは自分もそこに通う。そう思っただけで、興味が湧いてくるのか、結希は走りまわって、そこら中を見ている。
テニス部が練習をしているテニスコート。
乗馬クラブが練習している乗馬コース。
何があると言う訳でもない校庭に花と緑で埋めつくされた中庭。
俺の体中は汗まみれである。
元気そうに動き回っている結希も、俺から見れば汗まみれである。そんな結希を見ていると、よけいに額から汗が噴き出してきた気がした。
右手で額の汗を拭いながら、空の上の太陽を恨めしげに見上げた。
「ふぅ」
そんな息とも声とも分からない音を口から出した。
その時、視線の横に映っている3階建ての高等部の校舎に目を向けた。
初等部と思われる子供が廊下を歩き回っている姿が、廊下の窓から見て取れる。
校舎に目を向けてみると、結構な数の初等部の児童がいるではないか。
俺はあたりを見渡してみた。
確かに、初等部の児童もいるにはいるが、この広い空間を考えれば、その数は圧倒的に少ない気がした。
もう一度、校舎に目を向けた。校舎の中の方が多そうじゃないか。
今頃になって、気付くとはなんとおまぬけな俺なんだろう。
ここの校舎は冷暖房完備なのだ。
暑さに耐えかねて、多くの児童はその校舎の中にいるんだ。
「なぁ、校舎の中にも色々あるぞ。中に入ってみないか」
俺の言葉に結希が立ち止まって、振り返った。俺はそこで、校舎を指さした。
「ほら、初等部の子たちも校舎の中にいっぱいいそうじゃないか」
「本当だ」
「なっ、行こう」
俺が手を差し出すと、結希が手を伸ばしてきた。俺はその手を引っ張って、校舎を目指しはじめた。
灼熱の地獄から逃げ出す道が見つかった瞬間。
道が消えないうちに、逃げ出さなければならない。
きっと、その時の気分は今の俺が感じている気分と同じだろう。俺は結希の気が変わらない内に、校舎に駆け込もうと足を速めた。
近づいてくる校舎。
すでに校舎が造る影の領域に達した。日差しからは逃れられたが、熱気を帯びた空気はそのままに俺を包んでいる。
その先のドアを開ければ、ここよりは涼しい空間が待っている。
俺の手が校舎の裏門のドアに伸びた時、重い金属製のそのドアが開いた。
ひんやりとした風を一瞬感じたが、すぐに周囲の熱気が打ち勝ってしまった。
俺はドアを中から開いた人物に視線を向けた。
そこに立っていたのはあの天才少女 有栖川夏帆だった。
しかも、驚いた表情で、その視線は結希に向かって、ロックオン状態である。
なんだ?
そう感じはしたが、それよりも俺は中に入りたい。
そのためには、有栖川がどこかにいかなければならない。何しろ、俺の前には有栖川が立っているだけではない。その背後にいかつい体型のSP二人も、壁のように立っているのだから。
「あ、ごめん。
出るんだよね?」
俺は逆に俺たちが有栖川が外に出るのを塞いでいると思った。
しかし、有栖川は俺の言葉に返事をすることもなく、結希を見つめていた。結希はその有栖川の視線から逃れようと、俺の背後に回った。
「有栖川さん、どうかしたの?」
佳織が言った言葉に、有栖川がようやく反応した。
「この子は?」
有栖川の視線は俺と佳織、そして里保の三人を行ったり来たりしている。誰に聞けば、答えが見つかるのか? そう迷っているように見えた。
「あん?
かわいいでしょ。上杉さんの妹。上杉結希ちゃんよ」
佳織がちょっと自慢そうに、それでいてどこか冷たい感じで有栖川に答えた。
「宮島さんの妹? クローンに妹? クローンにクローンの妹?」
「はい?
宮島のクローンじゃない。上杉里保だ。クローンじゃない。人間だぞ。
人間なんだから妹だっているんだよ。間違えんなよ」
有栖川の言葉に俺は勢いよく反論したが、その後で俺は有栖川の言葉がとんでもない事を言っている事に気付いた。
どうして、クローンの妹なんだ?
結希がクローンだとどうして知っているんだ?




