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夏の日の朝

 夏の日差しはきつく、日の出からすぐに遮光カーテンを通り抜けて、朝の気配を運んでくる。ベッドの上でスマホに手を伸ばして、時間を確認する。

 5時26分。

 まだ早すぎる。

 ベッドの横に目を移すと、佳織がカーペットの上に寝転がって、こっちを見ていた。俺が目覚めた気配に気付いて、様子をうかがっていたんだろう。


 「おはよう」


 とりあえず、朝の挨拶だ。


 「おはよう」

 「まだ早いから、もう一度眠るわ」

 「今日は学校なんだからね。寝過ごしたら、だめなんだからね」


 佳織の言葉に、思い出した。今日は初等部、中等部、高等部の合同行事だ。

 強制参加ではないので、参加する生徒たちの数はしれていると思うし、俺も参加したいとは思っていなかった。

 だが、結希を編入させたので、少しでも学園に慣れさるためにと里保が、参加を提案したのだ。


 「ああ。分かってるよ」


 そう言って、俺は寝返りをうって、布団をかぶった。

 視界は暗くなったが、佳織と話した事で、頭の中は起動がかかってしまった。眠るつもりだったのに、眠れやしない。


 あの日から、何の動きも見せない田島はどう出てくるのか?

 実は田島はあの事件とは全く関係がないなんて事はないんだろうか?

 もし、背後にいるのが大久保だとして、その狙いはなんなのか?

 大久保だとしたら、次はどんな手でくるのか?

 そこをどうすれば、奴をぎゃふんと言わせれるのか?


 頭の中を様々な事が駆け巡る。そんな思考が渦巻くことで、ますます頭が冴えてくる。


 「はぁー。眠れない」


 俺は布団をはねのけて、起き上がりベッドに腰掛けた。

 そんな俺に、佳織がにへらと笑みを向けた。


 「あー。私の事が気になって、眠れないって訳?」

 「はい?」


 確かに佳織の事が気になっているのは確かだ。

 だが、俺の理性が俺の感情を抑え込んでいる。そして、それが正しい姿だと思っている。


 佳織も布団から抜けだし、四つん這いで俺のところに近寄ってきた。

 パジャマのボタンが、上から二つも外してあるじゃないか。はっきり言って、その隙間から、中が見えている。


 「しかたないわね」

 「な、な、何が仕方ないわねだ。

 ボタンをとめろ。ボタンを。中が見えているじゃないか」


 俺の理性が吹き飛びそうだ。慌てて立ち上がると、佳織の横をすり抜け、ドアを目指した。


 「今日はお弁当がいるんだろ? そろそろ作らないと」

 「私が作ってあげるわよ。朝食と合わせて」


 ちょっとほっぺを膨らませた佳織が俺の横をすり抜けて行く。

 キッチンに向かうと、佳織は素早く作業を始めた。

 昨日から作っていたゆで卵をボールの中で潰して、マヨネーズをかける。

 それが終わると、キュウリを薄くスライスし始めた。

 まな板の上で包丁が奏でるリズミカルな音が聞こえてきている。

 佳織の手際は見事だ。

 その動作が素早いだけではない。きっと、頭の中で作業の最短ルートを構築し、それを実行しているんだろう。


 俺はそんな佳織を近くで立って、眺めている。手伝ってやりたい気分は十分だが、佳織からすれば邪魔になってしまう。

 俺は少し申し訳なさげな表情で、食器の準備を始めた。


 陶器が奏でる音が朝の気配を俺たちの部屋を満たしはじめた。

 小さな部屋。その音は里保たちの部屋にも、朝の気配を伝えている。


 「おはようございます」


 里保が慌てて出てきた。髪はちょっと乱れ気味で、トイレに駆け込んで行った。


 この家の食事の準備はほとんど佳織が一人でしている。理由は簡単だ。元をたどれば里保は宮島家のお嬢様であって、庶民の朝ごはんをてきぱきと作るスキルが無い。

 結希はまだ小さすぎる。

 もっとも、結希が大きくなろうと、里保がスキルを上げようと、佳織の前では邪魔な存在でしかない気もするが。


 だからと言って、俺もそうだが、特に里保はそれをよしとして置けないのだ。

 だから、少しでも何かを手伝いたい。そう思っているようだし、実際、俺以上に何かを手伝っている。

 出遅れた事を取り返そうと、里保の動きは慌ただしい。

 小さな部屋の中を里保が動き回る音が響いている。

 トイレから出ると、洗面所に向かい、そしてキッチンにやって来た。


 「私も手伝うよ」


 里保が佳織の横に駆け寄って行く。

 里保は知らないだろうが、庶民の借家の造りはしょぼい。

 きっと、階下の部屋の住人は天井から響く里保の足音にいらついているかも知れない。

 佳織が里保ににこりと微笑んで、作業を指示している。

 にこりとした表情はやはりかわいい。

 そんな優しげな表情と、冷たい態度の対照性が俺の心をひきつけているような気がしてならない。

 佳織一人の方がきっと捗るはずだが、里保が加わった事で、見た目は作業は並行化され、効率よく進められているようにも見える。

 そんな二人からあぶれてしまった俺は一人、食卓に向かい始めた。

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