公園の朝10時
夏の公園、朝10時。
通路から外れた植込みの中に身を潜めている俺の頭上はるか彼方には、すでに夏の厳しい陽射しが輝いている。
木々が生い茂る中に潜んでいるとは言え、陽光を透す木々の隙間はそこら中にあって、痛いばかりの日差しが俺の頭を焼き付けている。
まだ朝のうちだと言うのに、とんでもない日差しである。
そんな日差しにさらされ、ただただ焼けるためだけの時間が過ぎて行く。
耳には相変わらず蝉の声がつんざかんばかりに届いていた。
時間を見ようとスマホを取り出すため、ポケットに手を突っ込んだ時、スマホが小刻みに震えた。
来た!
スマホを取り出して、着信したばかりのメールを見た。
差出人は佳織だ。今、やつらが待ち合わせをしている場所近くに潜んでいる。
「あいつらが来たよ」
あいつらが約束通り来たらしい。律儀な奴らだ。いや、正確には俺たちが怖いだけかも知れないが。
俺はメールを閉じながら、時刻を見た。10時ちょうどだ。
そろそろ川西も来るはずだ。
川西がどの道を通ってやって来るか分からない以上、俺はまだここに隠れていなければならない。
待っている間は時の流れが遅すぎる。そして、肌は瞬く間に焼けて行っているのか、じりじりしているのが俺の神経を通って、脳に伝わってくる。
まだか。木々の植え込みの奥深くで身を潜めながら、肌だけでなく、心までじりじりしてきている。
そんな時、ポケットに入れているスマホが再び振動した。
目にもとまらぬ速さで、スマホを取り出した。そんな気分だ。
佳織からのメールだ。
読まなくても、大体想像はつく。茂みから、公園内に張り巡らされた道に向かいながら、スマホを読む。
俺の歩調に合わせて、木々の木漏れ日の位置が変わって、スマホの画面を斑状にして、メールが読めやしない。文字、小さすぎ!
「川西も来たよ」
想像している文章を元に、俺の脳が激しく、画面の補正と合成を繰り返し、文字を頭の中に浮かび上がらせた。俺はスマホをポケットにしまうと、やつらの場所に小走りで向かった。
ここからだと、一分ほどの遠くない距離。
道の先に広場が見えてきた。
何人もの人の姿がある。
Tシャツにズボンの男たちが三人。スーツ姿のサングラスをした男が一人。こいつが川西なんだろう。
俺はスピードを落とし、散歩にでも来たかのような歩調で歩く。それも、何も気にしていないかのように、涼しげな表情で。
俺が歩くたびに発する足音を蝉の鳴き声が消し去っていて、男たちはまだ俺の接近に気付いていない。
さらに近づいて行くと、俺を襲った男たちが俺に気付き、俺に視線を向けて、目を見開いた。
当然、俺がここに来ることは知っているだけに、俺には芝居がかって見えた。
川西が男たちの視線の方向、つまり俺の方向に顔を向けた。
俺は川西と視線が合ったが、すぐにそらして知らんぷりのまま、近づいて行く。
「どう言う事だ?」
男たちの裏切りを疑った川西が男たちに視線を戻した。
「知らない。偶然だろ?」
男たちは手のひらを顔のあたりで、何度も振っている。
「なら、ちょうどいい。
今やれ」
川西が言ったが、男たちの動きは鈍い。
ここには川西に言った人数を集めてきた訳ではない。
いるのはほんの3人。ここで、川西側についたとして、勝てるとは思ってはいない。そんな態度をとって見せている。
「何を戸惑っている。
俺も手を貸す」
そう言って、川西が振り返った。
俺と視線が再びあった。その表情は完全に俺を気圧そうと、睨み付け気味だ。
「はい?」
俺がとぼけた表情で立ち止まると、一歩後ずさりしてみる。
「行くぞ!」
川西は背後の男たちに続けと言わんばかりの声を上げて、俺に向かってきた。
田島の家のボディーガードだ。柔道や空手か何かの達人のはずだ。
その点では、その辺のごろつきとは違って、たやすい相手ではないはずだ。
俺は全能力を傾けて、川西の攻撃の分析に入った。
川西の右肩が少し後ろに下がった。
右の拳でくる。
俺はその拳をいつでも右側にかわせるよう、重心を右寄りに移した。
その瞬間、川西は右足で地面の土を蹴り上げた。
予想外だ。
そんなダーティな手を使うとは。
俺の顔面を川西が蹴り上げた土が襲った。




