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平和な夜

 4軒分の部屋があるハイツ。

 もう眠っている家族があるのか、照明が点いているのは俺たちの部屋と一階のもう一部屋だけだ。

 一階の部屋の明かりがカーテン越しに、夜の歩道をかすかに照らし出している。


 その横の交番の前にはパトカーがとめられていて、中ではお巡りさんが何か事務処理をしている。平和な夜である。


 俺は2階に上がり、自分の部屋のドアに前に立つと、ポケットからキーケースを取り出し、鍵を使って、ドアのカギを開けた。

 レバー式の取っ手に手をかけて、ドアを開けると、中の明かりが俺たちの姿を照らし出す。

 俺の周りの蒸し暑つかった空気が、部屋の中からあふれ出てきた冷気で中和され、俺の汗を一気に止めた。


 「お帰りなさい」


 最初に出てきたのはパジャマ姿の結希だった。すっかり俺に馴染んで、かわいいじゃないか。頭を撫でてやる。

 そんな俺の横を涼しげな顔で、佳織は靴を脱いで部屋の中に上がって行った。

 流れるような汗で背中がぐっしょりの俺とは違って、佳織の背中は乾いていて涼しげだ。全く、羨ましい限りだ。


 「おかえりなさい」


 里保もパジャマ姿で部屋から出てきた。

 俺も靴を脱いで、部屋に上がって行く。先に部屋に入った佳織が、ソファの端に座っている。

 俺がその横に座ると、結希が横に座って抱き着いてきた。


 腕を回して、ぎゅっとしてやる。

 俺を見上げて、にこりとした。俺もにこりと微笑み返してやった。そんな俺に、もう一度にこりとしたかと思うと、「ふぁー」と、結希が眠そうにあくびした。


 そうだ。もうかなりの時間のはずだ。時計に目をやった。

 12時が近い。

 おいおい。子供が起きていていい時間じゃないじゃないか。


 「里保ちゃん」


 俺が振り返りながら里保に言った。

 里保がうん? と言った表情で、俺を見つめている。


 「結希ちゃん、寝かさないと」

 「戻って来るまで、待ってるって言ってきかなかったのよ」


 里保の表情は困惑気味だ。

 再び結希に視線を向けた。もう眠っているじゃないか。それだけ眠たかったんだろう。

 それなのに、心配していたのか、俺たちを待っていた。

 思わず、俺はにんまりとして、立ち上がった。


 横で眠る結希を抱きかかえた。

 まだ小さな結希は軽いじゃないか。そのまま寝かしつけに行こうとして、俺はふと立ち止まった。

 結希は里保と同じ部屋だ。

 結希だけの部屋なら問題はないだろうが、里保の部屋でもある。まずいんじゃね? 俺は里保の部屋に数歩近づいたところで立ったまま、固まってしまった。

 そんな俺を佳織が振り返って、一度小首を傾げてみせたかと思うと、にんまりとした。


 「ははぁん。結希ちゃんを口実に里保ちゃんの部屋に入ろうって、考えてるって訳?」

 「いや、だから、それはまずいだろうって思っているから、こうしてるんだろう」

 「あ、私が連れて行きます」


 里保が俺のところに、駆け寄ってきた。佳織が立ち上がって、そんな里保を手で遮った。


 「私が行ってあげるよ」


 そう言って、俺の腕から結希を取り上げた。

 もうぐっすりと眠っているのか、俺の腕から佳織の腕に移った事も気付かず、寝息を立てている。


 佳織が里保の部屋に向かい始めると、里保が先に向かい、自分の部屋のドアを開けた。

 部屋の中が見えてしまうのは仕方ないとして、見えると分かっていて、視線を向けておくのはよくない。俺は再びソファに戻り始めた。

 一度閉じたドアはすぐにまた開いて、佳織と里保が出てきた。


 「島原君。私も寝るね」


 振り返ると、里保は自分の部屋の前で、そう言って部屋の中に消えて行った。


 「そうだな。俺も寝るか」


 俺はソファから立ち上がり、洗面所に向かった。

 4人分の歯ブラシが並んだ洗面台。

 まるで家族じゃないか。ふふ。思わず、そんな笑いをして、青色の歯ブラシを手に取った。

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