田島のその先は?
にこりと微笑みながら携帯を突きだす佳織に、男の顔が一瞬、醜く歪んだ。
「お、俺、知らないんだ。本当だよ」
そいつは狼狽しながら、俺と佳織を交互に視線を送って、訴えかけている。
俺は佳織に一度視線を合わせると、顔を振って、あの時の黒Tシャツの男を差した。
俺の意図を読み取った佳織が、手にしていた携帯を男のポケットに戻したかと思うと、にこにこしながら、黒Tシャツの男に近づいて行く。
黒Tシャツの男は「俺は手出しはしません」と意志表示しているつもりなのか、直立不動で顔を引きつらせている。
そいつの前に立ち止まった佳織が、そいつの上から視線を下ろして行く。
「めっけ!」
佳織がそいつに手を伸ばすと、そいつはぎょっとした顔になって生唾を飲み込んだ。
佳織はそいつのズボンのお尻のポケットに手を突っ込んで、スマホを取り出した。
「はい。どうぞ」
佳織はまたにこりとしながら、そいつにスマホを突きつけた。
「します。します」
「しますって、一回言えば分かるわよ。二回言う暇があったら、さっさとしてよね」
男の言葉に佳織が不満げな表情で言った。
男が慌ててスマホを操作し始めた。緊張からか、手が少し震えていて、もたもた気味だ。
そんな男に、佳織の顔つきが不機嫌そうになった。
「とろいんだからぁ」
「す、す、すみません。すみません」
男は一度、佳織に視線を向けたかと思うと、数回頭を下げて、佳織に謝った。
だが、佳織と視線を合わせる勇気がないのか、一度視線を合わせた後は、ずっとそらしたままだ。
男はやっと操作を終えたらしい。スマホを耳に当てた。
「も、も、もしもし。俺です。この前の話、もう一度、やらせてください。
今度はもっと人数集めて襲います」
男が俺たちを襲うように依頼した相手と話しはじめた。ちょっと、声が震え気味だ。
それでは怪しまれるだろ。俺はその男に、睨むような視線を送りながら、話が終わるのを待っていた。
「で、報酬のほうなんですが、人数を揃えますので。
はい、はい。」
どうやら、俺たちの希望通りの展開になりそうだ。そう思っていた時、佳織が話しはじめた。
「相手の番号の名義は川西省吾。
川西省吾と言う名は田島の家のボディガードの一人と一致。
報酬は二百万円。受け渡し場所は私たちを襲ったあの公園の中央広場。時間は明日の午前10時らしいわ」
「やっぱ田島か」
「ね。私の言ったとおりだったでしょ」
佳織は得意満面の笑みだ。電話している当の本人は携帯の会話に集中していて、俺たちの会話は聞き取れていないようだ。
だが、周りの男たちは俺たちの会話に狐につままれたような表情になっていた。
横に立っているだけで、どうして、そこまで分かるんだ?
こいつらは何者?
そう思っているみたいだ。
まぁ、俺にはこいつらの事はどうでもいい。川西をおびき出すのに役立ってくれればいいだけだ。
だが、その先がまだ見えていない。
「しかし、俺を陥れた罠に、どこからどうつながっていくのか?」
「それはこれからでしょ」
佳織が俺ににこりとした。その頃には、男の電話が終わった。
「あの」
「ああ、いいよ。明日10時にあの公園にちゃんと来てくれよ。
俺も偶然通りかかったふりして、そこに行くから」
俺は男の言葉を遮って、そう言うと片手を上げて、背を向けた。男は自分が話していない内容を告げられ、呆然としていた。
「ちゃんと来てね。でないと、私、怒っちゃうよ。えへっ」
佳織はそう言って、俺に続いた。
振り向いて確かめなかったが、きっと男たちは最後に放った佳織の言葉に恐怖を感じつつ、去りゆく俺たちの後ろ姿を見て、解放感に包まれているはずだ。
田島が俺を襲うのは分かる。だが、あの事件は田島だけでできるのか?
謎は暗闇の中だ。
目の前に広がる夜の闇のように。だが、闇はいつか追い払われる。
そう思いながら、俺は自分の部屋を目指した。




