かわいいワルたち
俺が一歩踏み出して近づくと、背後はもうコンビニのガラスだと言うのに、男たちは一歩後退した。中には背後のガラスにぶつかりよろけた奴もいた。
「ま、ま、待てよ。俺たちはもうお前たちを襲ったりなんかしないよ」
男たちの一人が両手を差出して、俺が接近するのを拒む様な仕草をしながら言った。
その声は上ずっていて、あの暑い公園の中で俺に見せた余裕の表情はかけらもない。
それだけ、佳織に瞬殺された事が恐怖なんだろう。
「いや、別にそれはどちらでもいいんだが」
襲えるものなら、襲ってみろ。
そこまで言っているつもりはなかったが、男たちはそう受け取ったようだ。俺の言葉に威圧されたのか、表情の硬さが増した。
そんな男たちの横で、佳織はうれしそうににこにこしている。
一瞬の内に、男たちを瞬殺できる佳織。次の瞬間に、自分たちは襲われて、地に伏しているかも知れない。
そんな佳織が意味も無く、にこにこしている。
男たちにとったら、佳織の笑顔は不気味で恐怖だろう。
男たちをもう少しこのままにして、精神的プレッシャーをかけてもいい。
日ごろ、ろくな事はしていなさそうだから、逆の立場に身を置くことで、反省の機会になるかも知れない。
なんて、考えない事もなかったが、この蒸し暑さから、俺はさっさと解放されたい。
一気に用件を終わらせる。俺の頭の中で、そう結論が出た。
「俺たちが知りたいのは、俺たちを襲った理由だ。
誰かに頼まれたんだろ?」
男たちは固まったまま、ぎごちなくお互いを見合わせたかと思うと、肘でこづき合い始めた。「お前言えよ」 そんな感じだ。
「教えてくんないって訳?」
佳織が冷たい視線で、男たちに言った。
何かしてくるんじゃないだろうな。そんなドキッとした顔つきで、男たちの視線が佳織に集中した。
「言わないんなら、言えるようにしてあげてもいいんだけど」
そう言って、右手を少し上げた。男たちの表情が強張った。
「言います。言います」
佳織と俺に視線を行ったり来たりさせながら、哀願している。
佳織はその少し上げた右手で自分の髪をふぁさっと、かきあげただけだった。
絶好の脅しだ。
いや、佳織は本心ではからかって弄んでいるのかも知れない。
「で」
佳織がそれだけ言った。
「ネットで誘われたんです。あなたたちを襲えばお金をくれるって。
でも、相手の素性は分かりません。本当なんです」
その可能性は十分想定していたが、残念な言葉だ。
嘘と言う事もあり得るが、こいつらの表情を見ていると、その可能性は低い。
「つまんないの」
そう言った佳織の顔は唇を尖らせて不満いっぱい顔で、本当につまんなさそうだ。
どれだけトラブル好きなんだ。
佳織に恐怖を抱いている奴らは、その佳織の不機嫌さがより一層の恐怖に感じるらしい。慌てて、あの時の黒Tシャツの男が話しはじめた。
「あ、あ、あのですね。俺たちをそそのかした相手が何者なのかは分からないんですが、連絡方法はあります。
と言いますか、あれからもあなたたちを襲うように言われたんです」
「そうなんだぁ。俺たちは別にいいんだけど。もう一回、遊んであげても。
どうよ?」
男の言葉に俺は遊び心でそう返して、睨み付けてみた。
男はこの蒸し暑さのせいもあるのだろうが、汗を吹き出しながら、俺と佳織に視線を行ったり来たりしながら、言葉を続けた。
「い、い、いえ。もう充分です。も、も、もちろん、きっぱり断りました。あなたたちなんか、相手にしたら、こっちの命がいくらあってももちませんから」
そう言った男の顔は引きつっている。
全く、かわいいじゃないか。予想通りの反応だ。
ワルにはこれくらいのお灸はすえておいた方がいいだろう。少しは大人しくなるかも知れない。
もう少しからかってやるか。
少し斜に構え、目を細め、脅すように言ってみた。
「で、連絡を取って、その相手を呼び出せるのか?」
「報酬は現金での受け渡しなので」
「よし。適当な時間に、適当な場所へ呼び出してくんない?
今すぐ電話して」
俺の言葉に反応するかのように、佳織は一番近くにいた男のポケットから、携帯を抜き取ると、男の顔の前に突き付けた。




