夜のコンビニにたむろするのは
夏は夜になっても、暑い。
熱気を含んだ空気は多くの水分を蓄えていて、歩いているだけで、汗が出てくる。
着ている黒のポロシャツは乾くと、きっと白い塩の粉をふくに違いない。
それくらい、ポロシャツは俺の汗でぐっしょりだ。
そんな俺の横で、佳織は涼しげに髪を揺らしながら歩いている。うらやましいかぎりだ。
俺たちはあの男たちが夜な夜なたむろするコンビニを目指している。
どうして、ああ言う輩は夜のコンビニにたむろするのか。おかげで、俺はこんな暑い夜に歩くことになっている訳だ。
時折、すれ違う人たち。
男たちの何人かはちらりと佳織に視線を向けて行く。そんな男たちを街灯や商店の照明が映し出していた。
俺はそんな奴らに少しむっとしながら、コンビニを目指す。
暑さで不機嫌なところをさらに不機嫌にさせていっていた。
これで奴らがコンビニにいなければうんざりだ。
また明日なんて、できやしない。
心の中で、今日もいてくれと祈っていた。
やがて、白っぽいコンビニの看板が見えてきた。
コンビニの前に広がる広い駐車場。
会社員たちの帰宅時間をすでに過ぎた夜とあって、駐車場には空きが目立っていた。
コンビニの入り口に目をやった。そこから少し離れた灰皿の周りに、5,6人の男が立っていた。
目を向けると、少し顔が腫れ気味の男たちが混じっている。
俺たちを襲ってきた全員の顔を覚えちゃいないが、その何人かがいるのだろう。
そんな中に視線を集中させ、記憶をフル稼働させた。
初めて俺たちを襲ってきた三人組の中にいた黒いTシャツの男。
間違いない。
今日の標的の男がいた。
思わず、にんまりとしてしまった。俺の足が自然と速まった。
自分たちに近づいてくる俺たちに男たちが気付いた。
一瞬、怪訝そうな顔をしたかと思うと、驚いた顔で後ずさりした。
一瞬の出来事だったとは言え、佳織にやられた事は理解できていたようだ。
佳織に瞬殺された奴らにとって、佳織は恐怖の対象だ。
そんな中、俺たちを睨み付けている男がいた。
きっと、俺たちを襲った時はいなかったんだろう。
俺はそんな男をにらみつけながら、近づいて行った。
「なんだ、お前ら」
俺が睨み付けていた男がそう言って、俺以上の目つきで睨み付けている。
「あー。ちょっと、聞きたい事があってね」
そう言って、お構いなく進んで行く。
まだ仲間たちの多くが怖気づいてしまっている事に気付いていないそいつは、触れれば切れるぞ的なオーラを放っている。
元々それなりのワルがこれだけ集まっているんだ。
強気なのも当然だろう。
俺は指で、背後の仲間たちの方向をぷいぷいと振ってみせた。
俺の意図を理解したそいつは仲間たちに向き直った。
仲間の男たちは俺たちを威嚇するような気配がないどころか、真っ青な顔つきで立ち尽くしている。
それを見た男が少しうろたえ気味に、仲間の男たちに言った。
「ど、どうしたんだ。お前ら」
「逃げんなよ。聞きたいことがあるんだから」
俺がそいつの言葉にかぶせて言った。
怯えている男たちの一人が、逃げ出そうと一歩を踏み出した。その先に佳織が一瞬の内に回り込んだ。
「私たちと話したくないってわけ?」
首を少し傾げ、突き刺すような視線を向けている佳織は、はっきり言って恐怖だ。男は硬直した状態で立ち止まり、無言のまま震えている。
「あー。あんたは知らんのだろうけど、そいつらは俺たちを襲って、逆に佳織に瞬殺されたんだよね」
さっきまでいきがっていた男の顔が引きつっている。
仲間の男たちの顔はまだ腫れていたりして、襲った相手に逆襲された事くらいは聞いていたんだろう。その相手が現れた。
「くっそぅ」
恐怖に頭が混乱したのか、佳織はともかく俺になら勝てると思ったのか、男は突然、俺に殴り掛かってきた。
コンビニの白い照明が男の動きを浮かび上がらせる。
遅い。
軽く体を傾けて、その拳をかわすと、その腕を掴む。
そのまま体の向きを変えて、男の体を俺の背中に乗せると、男の勢いを利用して、投げ飛ばした。
俗にいう一本背負いが見事に決まり、アスファルトの地面に男は叩きつけられた。
そのまま、男の腕をねじ上げる。
「俺はさあ、争いごとって、嫌いなんだよね。ちょっと、静かにしていてくんないかなぁ。
あんたには用は無いんだから」
俺の言葉に、そいつは歪んだ顔のまま、何度もこくりと頷いた。仲間の男たちは引きつり気味の顔で、立ち尽くしたままだ。
「では、ゆっくり語り合おうじゃないか」
俺は掴んでいた男の手を離して、俺たちを襲った男たちに向き直った。




