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反撃の決意

 「お帰りなさい」


 その言葉に振り返ると、佳織に続いて里保が外に出てきていた。

 両手を胸のあたりで結んで、ちょっとうるうるしている感じだ。


 俺は自分の部屋の玄関に向かって歩き始めた。

 久しぶりに踏みしめるハイツの階段。

 一歩上る度に聞こえてくる安っぽい音に、懐かしさが込み上げてくる。


 もうすぐ二階。

 佳織に視線を向けた。佳織は相変わらずふくれっ面で、横を向いている。

 俺が二階にたどり着いた。

 佳織は突然俺に顔を向けたかと思うと、イーだをして、ドアを開けて一人部屋の中に入って行こうとした。その腕を掴んで、引き留めた。


 「待てよ」

 「何よ。帰ってくるのなら、そう言ってくれたっていいじゃない。

 どうして、すみれ子さんと帰ってくるのよ」


 一生懸命、佳織は抗議している。顔は真っ赤だ。

 なんだか、かわいいじゃないか。


 「なんだ。その事を怒っていたのか?」

 「べ、べ、別にそんな事、怒ってなんかいないわよ」


 さらに顔が真っ赤になっている。


 「じゃあ、なんなんだよ」

 「もういいわよ」


 そう言って、佳織は全身に入れていた力を抜いて、俺に向き合った。


 「おかえりなさい」


 恥ずかしそうな顔で、そう言ったかと思うと、俺の手を振り払って、家の中に走り込んで行った。

 小さな部屋を響かせるどたどたと言う足音が、その勢いを表している。


 「佳織さん。久しぶりなので照れてるんですよ」


 背後で里保がそう言って、微笑んでいた。


 「そうかな?」

 「入りましょ。ねっ」


 里保が俺の背中を押した。

 俺が家の中に足を踏み入れた。

 今まで感じなかったが、なんだかほのかな甘い香りがする気がした。


 靴を脱いで玄関に上がる。

 その先の見えるリビングにおいてあるソファにはもう佳織が座っていた。


 玄関のドアを開けると見えるリビング。

 そこに置かれた三人掛けのソファ。そこに座っている佳織。

 何と言う事も無い普段だった光景に、胸がし締め付けられる気がした。

 何でもない日々が幸せなんだと感じずにいられない。


 「おかえりなさい」


 俺のお腹のあたりに結希が抱き着いて言った。

 視線を向けると、俺を見上げて、うれしそうにしている。

 そんな結希の頭をなでなでしながら返す。


 「ただいま」


 佳織はともかく、里保と結希にとっては、俺は保護者のようなものだ。

 こいつらを守るためにも、俺は戦わなければならない気がした。

 俺をはめた奴を何とかしなければ、いつまた陥れられるか分からない。


 俺は一人頷いた。


 そんな俺の決意を読み取った訳じゃないだろうが、佳織が振り返ってうれしそうな笑顔で、にやりとしていた。


 「なぁ、佳織。俺たちを襲った男たちの素性、分からないか?」

 「あの男たちの顔のデータは照合済みだけど。目的は何なの?」


 ソファから立ち上がって、俺の方に佳織は向きなおした。

 言葉も口調は冷たいが、その顔はどことなく嬉しそうだ。

 こいつのトラブル好きには困ったとしか言いようがない。


 「田島にできる事だとは思っていないが、今回の事件にあいつもかんでいる気がするんだ。あの男たちが田島とつながっていたら、そこから何か探れないかと思うんだ」

 「探る? 脅すじゃなくて?」

 「ああ。探るだ」


 佳織は口先を尖らせて、不機嫌さをアピールしている。

 だからと言って、佳織のご機嫌をとるような事は間違っても言ってはならない。


 「で、どこの誰なんだ」

 「あれはただのごろつきよ。

 今から行く?

 行きたいって言うのなら、付き合ってあげてもいいんだけどね」


 その言葉に俺はどっと疲れた。

 俺は警察から解放されて戻ってきたばかりだ。

 精神的にも、肉体的にも疲労で満たされている俺に、今から出かけるかと誘うとは。


 「はぁ」


 俺は大きくため息をついて、目を閉じて首を横に振った。


 「あっそう」


 佳織は不満そうにそう言って、俺に背を向け、ソファに座りなおした。

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