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戻ってきてくれた すみれ子

 暑い季節だと言うのに、エアコンもなく、扇風機一つが生暖かい風を送っている取調べ室。

 俺の背中にはすりガラス越しの夏の日差しが降り注ぎ、背中から俺を蒸し焼きにしている。


 今日もすでに、何時間もの取調べにあっている。


 「お前がやったんだろ?

 いつまでそうやっているつもりだ」


 怒鳴り声と共に、机を大きな音がするほど、手で叩き、俺を睨み付けてくる。

 ずっと、そんな事を大声で言われ続けられ、防犯カメラが捉えたと言う俺と瓜二つの男がナイフを持っている画像だけでなく、その男が犯行後に道路を走っている映像など、様々な防犯カメラの映像とかを何度も何度も見せられていると、なんだか警察の言っているのが正しいのではないかと言う気さえ起きてくる。


 「幸い、急所は外れていたんだから、殺人にはならないんだし。

 さあ、早く認めて、楽になったらどうだ」


 怒鳴ったかと思うと、優しく言う。

 暑さで頭が鈍っているのも手伝って、ふらふらと「はい」と言いそうになってしまう。

 もう限界かも。そう感じ始めていた時、取調室のドアが開いた。


 俺の前にいた警官が振り返って、ドアに視線を向けた。

 ドアの向こうには若い男の人が立っていて、振り返った警官に「来てください」と手で合図した。

 俺の前に座っていた警官が少し鬱陶しそうな顔つきで、立ち上がるとドアに向かって行った。


 束の間の休息だ。


 これで少しは俺の追い詰められていた心も持ち直せる。

 深呼吸して、もう一度、心の中でとなえた。「俺はやっていない」と。


 「おい。面会だそうだ」


 警官は戻って来るなり、そう言って、廊下の方に向かって手招きをした。

 誰だ?

 もしかしたら、助かった?

 俺が淡い期待で、ドアに目を向けていると、スーツ姿の中年の男性が現れた。

 手には皮の鞄、前髪を垂らした顔立ちは少し若くは見える。

 知らない相手だ。一体、誰なんだ?

 そう思った時、その背後からもう一人現れた。

 すみれ子だ。

 助かった。思わず、そう思った俺の全身から力が抜けた。


 「こちらは山城家の顧問弁護士さんだそうだ。

 お前、どう言う関係なんだ?」

 「それは今回の捜査と全く関係の無い事です」


 警官の言葉を弁護士さんが遮った。

 弁護士さんがテーブルをはさんで、俺の前に立った。

 その横にすみれ子も立って、疲れ切った俺を励まそうとしてだろう、にこりとした。


 「おやつれになっていますけど、大丈夫ですか?」


 少し心配そうな表情になって、すみれ子が聞いてきた。

 俺はできる限りの元気を絞り出して、にこりとした。


 「地中海から戻ってきたの?」

 「ええ。切り上げて、飛んで帰ってきました」


 思わず涙がでそうになるじゃないか。


 「島原伸君ですね。

 少し話を聞かせてもらいたいのですよ」


 弁護士さんがすみれ子との世界を引き裂いて、言葉をはさんできた。


 俺は全てを語った。

 全く身に覚えがない事。

 あの日、俺は佳織たちとずっと部屋にいた事を伝えた。


 「なるほど。としますと、証人としてはその三名になる訳ですね」

 「はい。ですが、あの映像や写真があって」

 「佳織さんとご一緒だったんですよね」


 すみれ子が口をはさんできた。

 俺が視線を向けると、すみれ子の目が輝いている。


 「ああ。でも、証拠にはならない」


 俺はすみれ子の考えが知りたくて、佳織の証言の事は否定的な考えを示した。

 すみれ子は俺の言葉に大きく首を横に振った。


 すみれ子の甘い髪の香りが部屋の中に散らばった。

 すさんだ空間にまき散らされた、久しぶりの心休まる香りに思わず俺は深呼吸して、うっとりとした。


 「いいえ。証拠になりますよ。

 佳織さんのデータを読み出す許可を私に与えてください。

 お父様への証拠としては十分です。お父様にご納得いただければ、後の事は簡単です」


 山城家の力で何とでもする。そう言うことだろう。


 「でしょ?」


 すみれ子が首をかしげながら、そう言って、にこりとした。

 そして、すみれ子は弁護士さんを残し、警察を後にして、俺の部屋に向かった。

 俺とすみれ子の話は弁護士さんにも、読めていないようだ。

 だが、その事に関して、何も聞いてこない。

 山城の家の当主であるすみれ子のお父様の名前が出ているだけに、あえて山城の家に関わりそうな内容と思って、避けているのだろう。


 それからしばらくして、すみれ子が嫌がる佳織を半ば強制的に連れて来た。

 取調室に入って来るなり、佳織は少しふくれっ面で俺を見た。


 「全然帰って来ないじゃない。私に助けも求めないでさ」

 「いや。こんな事になるとは思ってなかったし。

 警察から逃げる訳にもいかないだろ」

 「そんな話より、さっきの事を佳織さんに指示してください」


 すみれ子がそう言って、俺と佳織の会話を遮った。

 視線を向けると、少し苛立ち気味のようだ。


 「ごめん」


 すみれ子にそう言うと、佳織に向かって用件を話した。


 「すみれ子が、佳織が記録しているデータを欲しがっている。

 あの日のタイムスタンプ付きの動画データを渡して欲しい」

 「それだけのために私を呼んだって訳?」

 「いや、それがとても大事なんだ。俺がここから出れるかどうかの。

 分かったよな?」


 佳織は唇を尖らせたまま、こくりと頷いた。


 「急ぎますので、それでは」


 すみれ子は佳織の手を引っ張って、部屋を後にした。


 「いいですか。人権侵害があれば徹底的に争いますからね」


 弁護士さんはそう言い残して、すみれ子たちの後を追った。

 その後姿を警官たちがうんざり顔で見つめていた。


 弁護士さんの一言が効いたのか、山城の家と言うものに遠慮を感じたのかは知らないが、俺に対する威圧的な取り調べは無くなった。


 そして、その二日後、俺は解放された。

佳織って、何者? って、感じですよね。

それはその内に明らかになりますので、よろしくお願いします。

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