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予想外の展開

 あれから何事も起こらないまま、俺たちは夏休みに入った。クローン少女たちもそのままだ。


 暑い日差しがレースのカーテンにほんの少しだけ弱められて、部屋の中に差し込んできている。

 ソファに座って本を読みながら、時折テレビに目を向けている俺の横で、佳織も本を読んでいた。


 このハイツの中の一室で、結希と里保は一緒暮らしていてるが、二人とも滅多には、このみんなの共通の部屋には出てこない。

 夏休みに入ってからと言うもの、これが俺たちの普段の生活になってしまっていた。

 クローン同志と言う意識の上に、そんな生活がさらに影響したのか、里保と結希の二人を強く結びつけたようだ。本当の姉妹以上に俺には見える。


 今日も何もない一日。

 そう思いながら、俺は膝の上に置いていたほんのページをめくった。

 横の佳織が顔を上げて、背後を振り返った。


 「どうしたの?」

 「誰か来る。それも何人も」


 真剣な表情で佳織はそう言うと立ち上がった。

 確かに階段を駆け上って来る足音がしている。

 玄関に向かって歩き始めた佳織の後姿に目をやった瞬間、チャイムが鳴った。


 「はい。どちら様ですか?」


 佳織がかわいい声でそう言って玄関のドアを開いた。

 その瞬間、ドアは勢いよく引っ張られ、外の空間と部屋の中は完全につながった。

 ドアの向こうに見えるのは何かの手帳を差し出した男たちだ。

 何だ? そう思った時、男たちの声が聞こえてきた。


 「警察だ。島原伸君をいるかな?」


 佳織が振り返って、俺にどうする? と言うような表情を向けた。

 寺下産業の一件か?

 ちょっと、しくじった気分だ。

 俺は怪訝な表情を浮かべて、立ち上がって玄関を目指した。


 「本物の警察ですか?」


 俺は佳織を見つめながら、言った。

 とりあえず、偽物って、可能性だって皆無じゃない。

 佳織は俺の意図を感じ取ったはずだ。

 そして、すぐに俺に頷いて見せた。どうやら、本物らしい。


 「当り前だ」


 俺に疑われた警官がきつい口調で言ったが、すでにその言葉は俺にとっては意味の無い言葉だった。

 佳織から本物だと教えられているんだから。


 「で、何のご用でしょうか?」

 「一昨日の午後二時、どこにいたかね?」


 一昨日? 

 予想外の言葉だった。

 てっきり、寺下産業から結希を連れ出した一件かと思ったが、そうではなかったらしい。

 冷静になってみれば、それはそうだ。

 クローンなんて存在は表ざたになってはならない訳だ。

 誰も俺たちを法的な手段に訴える訳はない。


 では、何の容疑だ?

 その日は里保の所に、クローン少女から電話があった日だ。

 何でも、田島がここに来るとかで、田島から逃げたり隠れたりしたら、クローン少女たちと宮島の家を見捨てると言ったんだ。

 なので、里保は一日ここにいる事を決意した。

 当然、俺も佳織もここにいた。だが、結局、田島は来なかった。


 「ずっと、ここにいましたけど」

 「証明する者は?」

 「私、ずっと一緒でした」


 佳織が言った時、背後から里保が姿を現した。


 「何かあったんですか?」

 「ああ、警察の人らしいんだけど、一昨日の午後二時に俺はどこにいたかと言っているんだ」

 「一昨日は私もずっと一緒でしたけど」

 「私も」


 里保に続いて、部屋のドアの隙間から顔だけ覗かせて、結希も言った。

 みんなが同じことを言った事に、警官の顔つきは明らかに険しさを増した。嘘をつくな! そんな感じだ。


 「では、質問を変えよう。

 これは誰だ」


 警官は一枚の写真を取り出した。

 そこにはきらりと輝くナイフを手にした桜華学園高等の制服を着た若い男性が、走っている姿が写っていた。

 その斜め前から捉えた男の顔は俺じゃねぇか。

 他人のそら似か? それにしても、そんな奴が俺の学校にいたとは聞いたことがない。

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