苦手な二人組
やって来たのは大久保真二。
この学園の中等部三年。
見た目だけは少し丸みを帯びた温和な顔立ち。
そこに付いている目は、きりっとしていて知性を感じさせる。
男だが、長く伸びた黒髪は後ろで一つにくくっていて、歩くたびに左右に揺れるんだ。
大久保の後ろには寄り添うように、東原彩香と言う女生徒が立っている。
俺は深いため息をつき、鬱陶しそうな顔つきでドアに向かい始めた。
その俺の後ろを佳織が真剣な顔つきで付いてきた。
「西野先輩、そんな怖そうな顔しないでくださいよ。
ちょっと、話があるだけなんですから」
大久保が佳織におどけた表情で言った。
「ちょっとまじめな顔しただけで、怖そうって、どう言う事よ」
むっとした表情で佳織が言う。
「こ、こ、怖い」
大久保の背後で、東原が両手の拳を握りしめ、口元あたりで合わせて震えている。
「何が怖いだ。お前の方が怖いわ!」
この二人とも苦手だが、東原のキャラは特に俺には合わない。
冷たく、そう言い放つと、大久保に視線を戻した。
「で、話ってなんだ?」
ぶっきらぼうに言った俺に、大久保は手をくいって動かした。
あっちで話そう。そう言うことだろう。
俺が廊下に足を踏み出すと、大久保は俺に背を向けて、さっき自分が差した方向に歩き始めた。
大久保、東原。その後を俺と佳織が並んで歩いて行く。
「さっきのあれって、田島の家の息子なんでしょ?
もめてるの?」
ちらりと振り返って、大久保が言った。
「ああ。もめていると言うか、何と言うか」
「ふーん」
大久保は廊下を進んでいくと、屋上につながる階段を昇りはじめた。
この校舎の屋上は鍵がかけられていて、上る事はできない。
大久保は屋上につながる鍵のかかったドアの前で立ち止まった。
俺たちがドアの前にたどり着くと、声を抑えて話しはじめた。
その顔は苦悩しているかのような作った表情だ。
「東海化学、知ってますよね?」
大久保が現れた時から、用件は予想していた。
大久保はそこの話を直球で聞いて来た。
どう答えようかと考え始めたが、こいつは俺の答えを求めてはいなかったようだ。俺の言葉を待たず、そのまま話の続きを始めた。
「クローンを使った人体実験をやっていると言う噂が流れた寺下産業に、東海化学からクローンを一体サンプルで入れたんですよね。
そしたら、次の日、東海化学の社員を偽った若い男女がそのクローンを連れ去ってしまったんですよ。そして、あの騒動でしょ」
そう言って、俺たちをじろじろと見つめている。
「へぇー。で、俺たちを呼んだのは?」
「寺下産業の監視カメラシステムは乗っ取られて、ウェブに流されるわ、記録映像は消されるわでね。その男女の姿の録画データは無いんですよね。
そんな事ができて、東海化学の動きを知る事ができる者っていったらさ」
「うーん。誰なんだ?」
とりあえず、すっとぼけてみるしかない。
寺下産業の広中に俺たちの写真を見せれば、ばればれだ。
いや、こいつはすでに知っていて言っているのかもしれない。
「そうですか。検討もつかないですか。
ならいいです。
ですが、僕の管轄下にある東海化学に勝手な真似は許しませんから」
大久保はそう言うと、俺を手で押しのけて、長く束ねた髪を左右に振りながら、階段を降りはじめた。
「待ってよぅ」
東原が両手を胸のあたりで結んで、そう言いながら、大久保の後を追って行った。
「はぁ」
ついつい俺はため息をついて、肩を落とした。
はっきり言って、俺はあの東原を見ているだけで疲れてしまう。
「ばれてるかもよ。ね、どうするの?どうするの?」
俺の前に顔を突き出している佳織の顔はうれしそうだ。
「たぶん、ばれているだろうな」
「どうするの? どうするの?」
「どうもしないよ」
そう言うと、俺は階段を降りはじめた。
「つまんないなぁ。
でも、結希ちゃんが誰のクローンなのか探るために、東海化学のメインサーバーをハックしなくてよかったってわけね。
そこまでしてたら、私だって、完全に絶対ばれてたわよ」
「ばれるって、自慢そうに言うことか?」
とは言ってみても、佳織の言っているとおりだろう。楽しい夏休みを前にしていると言うのに、俺は憂鬱な気分だった。




