動揺するクローン少女たち
俺たちは普段の生活に戻っていた。
俺の前には佳織が、俺の後ろには里保が座っている。
ちなみにこの学園の初等部には結希が編入されている。
上杉里保と名乗っていても、それが宮島の家から処分されるはずだった宮島やよい5号である事は誰もが知る事実だった。
そんな里保が宮島の家の重荷から、解放され生き生きと暮らす姿は、宮島家のクローン少女たちに影響を与えた。
家のために束縛された生活。
家のために自分の意思を押し殺しての振る舞い。
それでも確実に宮島の家を継げるのなら、耐える事もできただろう。
しかし、宮島の家を継げるのは残るクローン少女たち4人の内の一人だけ。
いや、それだけでない。宮島の家自身が危うい事も合わせて、クローン少女たちは今の自分の姿と里保の姿を比べはじめていた。
「上杉さん。教えて欲しい事があるんですけど」
俺の背後で、里保の前に立っているのは宮島やよい1号と4号だ。
俺は振り返って、二人の表情を見た。
この前までの5号に向けていた嘲笑や蔑視の表情は無く、真剣そのものだ。
里保はまだ彼女たちに傷つけられた心が癒えきっていないのか、その顔に警戒心が浮かんでいる。
「あの時、島原君からもらった封筒の中身はなんだったんですか?」
「ただのメモだよ。勉強のための」
自分の名前が出た事で、俺がむすっとした口調で言った。
二人のクローン少女が俺に視線を向けた。
「私たちは本当の事を知りたいの」
「だから、それが本当の事だ」
「私たちも人間になりたいの」
さっきまで真剣そのものだった二人のクローン少女の顔つきは、悲しげな表情に変わっていた。
俺は里保にあんな態度をとっていたクローン少女たちは嫌いだったし、許せなかった。
しかし、今の悲しげな表情は俺を惑わせている。
山城の家の力で手を回せば、この国の戸籍を作り込んでしまう事が可能な事は知っていた。
里保に結希、ここのところ二人もすみれ子を使って、戸籍を作ってもらっている。
これ以上、迷惑をすみれ子にかけていいものか。
俺が戸惑っている内に、2号と8号が立ち上がって、叫んだ。
「何を言っているの、あなたたち」
「宮島の家を裏切るの?」
「裏切る?
そうね。確かにそうなるわね。でも、宮島の家は私たちを愛して、子供として、いいえ、人間として受け入れてくれているのかしら。
もしも、子供として愛してくれていたら、処分なんて事しないわよ」
1号は絶叫気味だ。
言い終えた1号は震えている。
自分のした事への後悔? 恐れ? 未来への不安?
「ね、さらわれそうになったんでしょ?」
4号が里保にたずねた。
「さらわれた後が、怖いんだよねぇ」
佳織が振り返って言葉を挟んだ。
そこまで言ってから、にこりと微笑む笑みは、悪魔の微笑みかい! と思ってしまうほど、意地くそ悪い気がしてしまう。
「その話は止めて」
机の上に両手をついて勢いよく立ち上がりながら叫んだ里保の言葉と、震えているその姿に、クローン少女たちは処分の先にあるものを恐怖としてとらえ、全員が青ざめた。
「勝手な事するんじゃない。
お前たちは宮島の家がどうなってもいいのか」
田島が怒鳴った。怯えた目で、田島を見つめるクローン少女たち。
「一人でも、俺を裏切るなら、俺の家は宮島の家を見捨てるからな」
その一言で、里保の周りにいた1号と4号がとぼとぼと田島の下に戻り始めた。
俺としては、宮島の家はどうなろうと全く関係がない。
このクローン少女たちは、まだ完全に許した気分にはなれてはいなかったが、助けてやってもいい気持ちが少しは湧き上がって来ていた。
だが、本人たちが宮島の家を選ぶのなら、それはそれで本人たちの選択だ。
そう思って、俺が一人、小さく頷いた時、里保がぽつりと言った。
「助けてあげて、あの子たちを。
私の時と同じように」
「分かった」
そう言って、立ち上がった時、開いた教室のドアから声がした。
「島原先輩。お話があるんですけど」
それは俺が最も会いたくない奴だ。




